第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 09 節「本有(ほんぬ)の発現」
「今のが伝令部隊のプッゴス宛だ。
急がなくていい、もう一枚同じものを書いてくれ。
・・・警備長ワヌアスに宛てる。」
少年は瞳を輝かせた。
そんなふうに手を打つのか。
これでリザブーグを中心とする警備体制の全軍まで行き渡るだろう。
タフツァはウィロについて、乗馬と投げ縄の腕前だけでなく、革命機関紙を配り歩く志(こころざし)と、魔法革命を通じて人々の心をも変えていこうとする強い意思、謙虚で驕らない性格、そして何より燃えるような求道心を高く評価していた。
『必ず立派な青年に育つ。
特に決戦後の、次代を担ってもらうんだ。』
思わず顔がほころぶ。
しかし敵から目を離さない。
ファラには敵の謀略に陥れられてしまうような、人の善さがある。
自分の意思によって突き進むからだ。
その点、タフツァは敵の狙いを読んで先回りし、主導権を握って一気に攻め落とすしたたかさを持つ。
シェブロンの帰還を受け入れる役目が彼でなかったなら、敵に付け入る間隙(かんげき)を与えただろう。
直情的なテンギが目を覚ませばすぐにそれと分かる。
だがホッシュタスはどうか。
気絶したままを装って、魔力の回復を待つか、隙を窺(うかが)ってこの場を逃げ去るに違いない。
「ウィロ。
ここに居ればプッゴスの部下がじきに来るだろう。
それを待たずに、ひとっ走り伝令の拠点へ行って来てもらえないか。」
「もちろんです!
手紙を届けるんですね。」
「それが一つ。
あとは荷台のある馬車と、輸送部隊を手配して欲しい。」
少年は察した。
聞かれてはまずいのだ。
ホッシュタスを捕縛してリザブーグへ移送する作戦指示だった。