The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 08 話
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やがてザンダたちも出発の時を迎えた。
少年はライオンのドガァに乗って、各地へ赴く同胞や家臣たちに言った。

「おれはみんなと出会えて本当に幸せだ。
これから向かう場所は世界で最初に異変が起こった『長老の森』。
尊敬するヱイユさん、本当の兄ちゃんのようなファラくんが、すでに現地で戦ってる。
星の生命エネルギーが湧き出す、大切な場所。
生きとし生きる全てのものにとって守るべき場所だ。
ロマアヤ、セト、ウズダク、メビカ、そこで暮らす何万の人たち。
おれはこの“生命”に替えても『森』を守り、みんなの生活を守りたい。」

彼らはまず馬車で北上してメレナティレに入り、船でオルブーム大陸へ渡る。
そこから先は原住民の領地であり、足を踏み入れるにも使者を遣わせるなどの配慮が不可欠となる。

一方、南端のミナリィ港からブイッド港を目指すのは、ロマアヤ方面へ帰還する後発のメンバーだ。
ザンダが涙に暮れず話ができたのも、このメンバーの多くが他国の士であったからである。

すなわち、ブイッド港から北へ、セト国に帰還するのは大将ズンナーク、リルー将軍、オオン将軍。
元々敵であっただけに、ザンダは強い言葉を発することができる。

また、ミナリィから西へ行かず、東回りで祖国を目指すのはメビカの人々だ。
ヌダオン=レウォ、ジシュー将軍、その配下たち。

彼らは先にウズダクへ発ったハムヒルドやレスタルダを見送った後、リザブーグ城でしばし出発の時を待った。
ヌダオンなどはシェブロンに教えを乞おうと従者を連れて部屋を訪れた。

「偉い人に弟子入りしたもんだ。
儂(わし)も若ければすっかり違った人生を歩んでいたわい!」

こう言って彼は豪快に笑った。

「まずは今度の戦い、頼むよ御頭!
それが終わったら、また互いに行き来して、いつか先生をお迎えしようじゃないか。」
「相(あい)分かった、若きゼオヌール公。
民を悲しませるなよ、今度会う時は、両国の若い者を集めて、サーベルで打ち合いといこう。」

魔導騎士の称号を受けてから、常に剣を持つようになったザンダも、この老海賊の末裔に戦いを挑まれるとさすがに冷や汗が出る思いがした。
だがヌダオンの年老いた深い瞳の奥には、昔会ったザンダの父、青年ゼオヌール10世の姿が映じていたのである。

「よしっ、達者で!
御頭!
場所は違っても、戦う目的は一緒だぜ。」

ヌダオンが大いに喜んで、しっかりと目を見て握手したので、ザンダは腕が抜けるかと思った。
ただ強がりによって握り返し、睨むように目を見返す。

快活な、豪快な笑い声が空に響いた。

南へ、ヌダオンを乗せた馬と、数台の馬車が出発していく。
北へ、ドガァに跨(またが)るザンダと、屋根のない馬車でナーズン、バミーナが行く。

彼らは見えなくなるまで振り返り、互いに手を振っていた。

城内で師に別れを告げてきたザンダは知る由もなかったが、シェブロンは彼らの出発の様子をずっと見ていた。
同じようにザンダと別れたフィヲも、シェブロンと一緒に見送った。
彼女は、降りて行ってもう一度ザンダに会おうとしたが、シェブロンは笑って引き止めた。

「ザンダがかえって辛くなるだろう。
ここから先はロマアヤの公子としての振る舞いをさせてあげようじゃないか。」

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