第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 05 節「獅子王の会座(えざ)」
森は病み始めていたのである。
世界を満たした緑色のエネルギーは、すでに闇を帯びてきていた。
“LIFE”の魔法陣の中で魔人が苦しみもがくように、反“LIFE”の流れに変わりつつあるこの森の瘴気(しょうき)は、ヱイユの心身をひどく蝕んだ。
豊穣(ほうじょう)な大地の癒しは、腐敗によって毒と化してしまった。
ヱイユは夢にうなされ、額に汗を滲ませていた。
苦しみの声をあげるようになると、アーダは心配になって鳴いた。
「はあっ、はあっ、はっ、はっ、ううっ・・・。」
これは夢なのか現実なのか、早く確かめたくて飛び起きた。
「アーダ!
ヒユルは!?」
目を閉じて首を振るアーダを見て、ヱイユは落胆し、大樹の懐に両手を着いた。
全身の汗が冷えていくようだ。
「どうしたんだ、この森は・・・。」
アーダも咽(むせ)るようで、その頭に触れて立ち上がった。
「奴ら、何か撒きやがったな・・・!!」
彼は最初、魔人どもが毒霧のようなものを発生させているのだと思った。
「アーダ、ここにいたら俺たちまでやられてしまう。
上空へ、飛べるか?」
頷いた背中に飛び乗ると、冷たい空まで突き抜けた。
東の方に白っぽい靄(もや)が立ち込めている。
どんよりと朝が明けようとしていた。
「空気もそうだが、森の様子が変だぞ。
何か分かるか?」
ヱイユはアーダの首元まで近付いて、竜族の声を読み解いた。
「獣が!?
操られているのか?
自分たちの森を破壊するために、術士に力を貸すというのか・・・!!」