第 08 章「星辰(せいしん)」
第 01 節「萌黎(ほうれい)の朝(あした)」
ロマアヤの遺民たちは、表向きは家屋の並ぶ集落に住んで混合農業を営んでいる。
だがその地下には、天然の洞窟に手を加えた棲家があった。
これまで、セトの軍隊の侵入は集落へ至る前に撃退されてきた。
もしも攻め込まれたならば、洞窟を掘り進めた先、幾つもに分かれた断崖へと通じる「海」が最後の逃げ道となる。
この集落は、セトの都「シャムヒィ」からは遠くに位置したが、後方の海はといえば、セトと同盟関係にある「ウズダク海軍」に攻められる危険がないとはいえない。
断崖や入江に筏(いかだ)などを置けば、ウズダクが嗅ぎ付けてくるにちがいなかった。
取り急ぎファラに一部屋、ヴェサとフィヲに一部屋が与えられ、ザンダとドガァは特別に奥の間が用意された。
ルアーズには以前の滞在でも借りた大客間が宛てられる。
彼女の旅仲間は女性剣士サザナイア、男性魔法使いアンバスと、女性2人の方が強いため、いつも相部屋なのである。
個室は天井、床、壁とも岩と土でできている。
最初の会議があった夜、家老ムゾール=ディフがランプを持ってファラの部屋を訪ねてきた。
「ファラ殿。
ザンダ様に、我がゼオヌール公のことを詳しくお話ししたいのだが、どう考えられるか。」
「ルビレムさんに伺いました。
本当はぼくも話したくて仕方がないのです。
ただ、・・・まずはザンダに、シェブロン先生の弟子として戦わせてやってください。
そして勝利を得た後、大事な時を見てお話しください。
それほど遠い先のことではなく、彼にロマアヤの後継者としての自覚が必要となる時は、きっと来るでしょう。」
彼らは一日も早く、ザンダを君公と呼びたいのである。
その気持ちはファラにも分かったし、ムゾールは師弟の絆を重んじる一行の考えがよく分かった。
「実際、どのように戦われるおつもりか。」
「まず初戦で、敵兵は引き受けましょう。
ルアーズさんも戦場に立つことができます。
それと、彼女の仲間が2人、10日ほどでブイッド港に着く予定です。」
「それは心強いが・・・。
では、ザンダ様は・・・?」
「ライオンのドガァがかなりのはたらきをします。
ザンダはドガァのいる場所で、彼らしい戦いを展開するはず。」
「あの法衣の女史も戦われるのか?」
「ヴェサさんは相当の腕前です。
しかしできるだけ後方に。
ピンチの時にはフィヲとともに戦闘にも立ってくれるでしょう。」
「分かった。
では、我らは引き続きゲリラ戦にあたろう。
相互の連絡はどうする?」
「作戦は完全に独立したものにしましょう。
それぞれの動きと日取り、会議の日時だけ、決めておくのです。」