The story of "LIFE"

第 04 章「開戦」
第 03 節「人生の師」

第 07 話
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大部屋にある二つの個室がシェブロンとトーハの寝室であり、ノイとファラはリビングで過ごした。

ノイは博士が部屋にいる時はそのドアの前に立ち、休憩する時も前の壁に寄り掛かって仮眠する。
シェブロンの活動中、今回の滞在で言えば王宮に出向いている間などは心配せずに寝床で寝るようにと命じられていた。

ファラのために別の部屋から運ばれてきた机と椅子があり、彼は早めの就寝まで、そこで真剣に学習する。
博士は限られた王宮での時間に為すべきことを調べたりまとめたりするのに余念がない中、ファラが机に向かっていると必ず近くに来て、講釈を与えてくれた。

「魔法には得手・不得手があると言ったが、実は万人の“生命”には本来、全ての魔法が具わっているのだ。
このことをまず身で覚えてもらいたい。
では、剣を修めるのは何のためか。
殺意を持った相手から自他の“生命”を守り、開花させていかなければならない。
そして君が志した『無刃刀』による戦法は何のためだい?」
「相手の“生命”をも守りながら戦うことで、どれほど尊い“いのち”かを、教えるためです。」
「その通りだ!
師弟とは、仮に師が自らの時代に成し遂げられない理想があったとしても、必ず弟子が実現してくれると信じて守り育てることなのだ・・・。」

ファラは一瞬、身震いするような大きな期待と重責を感じ取った。
博士は、自分に“LIFE”の実現を託そうとされているのだろうか・・・?

「『クネネフ』は外で学習します。
今、室内でできる魔法はないかと考えたのですが、これを見てください、『ザイア』です・・・。」

空気中の水分が集まり、冷気を帯び始める。

「なんと!
もうそんなことができるのか。」
「そして、『ズーダ』です・・・!」

にわかに、暖炉の側へ寄ったかのような熱気が現出し、今集めた微小な氷の結晶が、水滴となって床に落ちた。

「これはすごい。
驚いたよ。
時間を、生命を、どうか大事にしてくれたまえ・・・。」

博士は感動して胸が詰まってしまったようだ。
そのまま部屋に戻って行った。

今度はノイが来た。

「いつも思い悩まれている博士が明るい表情をされていました。
ファラ君、きみはやはり・・・。」
「ノイさん、ぼくの母さんが魔法を使うのを、ご覧になったことがありますか?」
「あるとも。
偉大な方だよ。
悪魔の群れに遭遇しても、戦慄するような危機が訪れても、『恐れ』というものを見せたことがない。
そういえば、きみが魔法陣を描く時の左手のしぐさが、お母さまとよく似ている・・・。」

少年はどちらの手でも魔法を使えたが、右手で文字を描いている時、左の手を添えて、魔法陣を支えているようにするのである。

『父さんも母さんも、ぼくの中で生きているんだ。
寂しくなんかない。
温かい・・・。
そして二人とも、今は新しい生を受けている。』

その夜、ファラは灰色の竜が父ツィクターの剣をくわえて会いにくる夢を見た。

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