第 13 章「革命機関紙」
第 01 節「エピローグ」
かつて「闡提嶼(せんだいしょ)」と呼ばれた島々に、わずかながら希望の灯が点(とも)されようとしていた。
移民が進んだことで、ここは新しい世界の縮図のようになっている。
彼は、今日の正午に議会で読み上げることにしている演説の原稿を、何度も何度も声に出して読んだ。
半数を占める保守派勢力は皆、彼と対立していた。
対する左派も、隙あらば好餌として攻め落とし、議会からの閉め出しを狙っている。
孤軍奮闘と言えたが、彼には支持者が数多くいた。
議事堂へと向かう道々、彼を付け狙う勢力の影に警戒し、横断幕を掲げる支持者の声援、敵対勢力からの罵声を受けた。
「今日は、負けるわけにはいかないぞ。」
派閥や会派として対立していても、各自を見れば皆、心を持った人間だ。
その心を打つ、声の力によって勝つのである。
物陰から銃口を差し向ける、黒づくめの男が、巡回中の警官に取り押さえられた。
まだ物騒ではあるが、暴力は治安によって鎮圧されていた。
議事堂の扉が重々しく開く。
外から光が差し込む。
場内がざわついて、ひそひそと耳打つ声がノイズのように思考を遮った。
保守派の議長が「静粛に」と言う。
真っ先に手を上げたのは、原稿を用意していた彼である。
「・・・では発言を認めます。」
またか、という顔である。
しかし強い熱意の者には誰も敵(かな)わない。
「我が国の発展は、各国から移民した人々の貢献なくして語ることはできません。
彼らは旅行者ではなく、この国に暮らし、この国に税金を納め、この国で子供を育てています。
にも関わらず、この国の行く末について、選挙に参加することができない。
代表となって立候補することもできない。
この点、首長はどうお考えですか。」
議長の声が響く。
「保守党首長!」
苦々しい顔をして、指名された代表は立った。
「そんなことをすれば、国民の血は薄れ、いずれ他国民出身者によって支配されないとも限らないではないか。」
そうだ、そうだ、と怒号が飛ぶ。
「静かに!
・・・質問者は発言しなさい。」
つかつかと、彼は再び演台に立った。
「文化の継承は必要です。
国民のアイデンティティーを失う必要もありません。
私が問題視するのは、我が国において、ネイティブが優位にあり、移民の権利を制限している点です。
海外から優秀な人材を集めても、今のままではネイティブという固定観念の域を出ることができません。」
すると罵声が上がった。
「お前が移民だろう!」
「売国奴め!!」
噴出したアンチ感情が、しばし鳴り止まない。
見かねて議長が声を荒げる。
「・・・静かにしなさい!!」
議場内の声は、ザーっ、と収束していった。
もう一度、彼が挙手する。
「民主主義の根幹は、話し合いによって前へ進むことです。
他民族出身者から良い意見が出て、この国の未来が大きく開けていく可能性がある。
それを閉ざしているのが現状なのです。
移民の声は国政に不必要とお考えですか?」
今度はざわざわとした話し声が広がる。
「では法務長官!」
肩幅が広く背の高い、白髪混じりの長官は立った。
「純国民が彼らの意見を聞き、国政に活用するという立場でございます。」
場内からは「当然だろう!」等の怒声が飛んだ。
「質問者は、何かありますか?」
議長の促しを得て、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「はいッ!!」
三度(みたび)挙手して立った。
「ならば、被選挙権はなくても、選挙権は必要ということになりますね?」
怒濤のような反駁の声が上がる。
「何を言ってるんだ!」
「気が狂っている!!」
「発言をやめさせろ!」
議長の声も掻き消されるほど、怒声は場内を制圧した。