第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 05 節「妙法広布の大願」
サザナイアはどうしたか。
ザンダ=ゼオヌールが暮らす宮殿に近い旧ジ=ヅール堰で、剣と剣の激しい応酬を繰り広げる騎士の姿があった。
ガツン、ガツンとぶつかり合う剣が、心持ち一方へ押されている。
防いで打って出ようにも、防ぎきれずに弾き飛ばされる。
跳び退(すさ)って足で踏ん張った所に、更なる強撃を受ける。
カーン、と剣が飛ばされる。
「覚悟ッ!」
慌てて引き抜いた短刀と盾で受けようとしたが、盾は割れ、短刀までも打ち飛ばされてしまった。
負かされたのはルビレム、討ち取ったのはサザナイアである。
腰を着いたルビレムを懐抱するようにサザナイアが抱きついた。
「待て、何を・・・!?」
どんなに強いと言っても乙女のすることだ。
二人は結婚を約し合っていた。
「・・・大丈夫?
ケガはない・・・??」
手首を痛めていたが、それは日常茶飯事だった。
手甲を外し、傷をじっと見ると、サザナイアが口を付けた。
「じきに治る、やめたほうがいい・・・。」
「いいの。」
そして自ら口を拭き取り、ルビレムの手に包帯を巻いた。
「大袈裟だ、包帯など皆が心配するだろう。」
「私にやられたって言えばいいじゃない。」
ドガァの妻アームルにも劣らない雌獅子ぶりだ。
すでに周知の間柄であり、連れ立って歩くことを憚(はばか)る必要はなかった。
将来、かつての旅仲間が住むことになるロマアヤで、サザナイアはこの頃から生活するようになっていた。