第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 05 節「妙法広布の大願」
赤ん坊の泣き声がする。
腕(かいな)に抱いて頬を寄せるのはソマである。
彼女は一子を授かり、出産したばかりだった。
その声を聞くと、思わず剣を置いて戻ってくる、新米の父がヱイユだ。
「どうした!?
具合が悪いのか??」
顔を上げたソマは、かつて見せたことのない穏やかな表情で、はじけるような光輝に包まれていた。
「おなかがすいただけよ。」
するとヱイユは急に顔を赤らめて、授乳の邪魔になるまいと、また外へ出ていった。
剣士ルクトは背が高くなって、ますますツィクターに似てきた。
素振りだけでは稽古にならない。
今の彼には手本となるヱイユの存在が必要だった。
はにかんで見ていたリーシャが、思わず声を上げて笑った。
「ほんとにそっくりね、私たち、生まれ変わったんだわ。」
ルクトはリーシャを大切に思っていた。
だから交際しようというのではなく、今は剣の腕を磨きたかった。
こうした異性観のすれ違いは、同い年で交際に至るのは難しいのだが、リーシャのほうが幼いので釣り合いが取れていると言える。