第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 04 節「元品(がんぽん)の無明(むみょう)」
グルゴス一世は、激しい寒さと腰の痛みで目を覚ました。
空しか見えない。
足が、地面に着いていなかった。
宙に浮いているかと思えば、何かが腰に突き刺さっているようでもある。
彼はユッカが言った通り、ヤコハ=ディ=サホの山頂に、仰向けに背を貫かれていた。
猛禽が三羽、飛来して頭や腿(もも)にとまった。
破れた鎧の間隙を衝いて、鋭い嘴(くちばし)が捩(ね)じ込まれる。
肉が引き千切られる。
痛い、呻(うめ)き声を上げる。
遠くで、否、周辺で、叫び声が聞こえてくる。
猛獣に足を喰い裂かれるヨムニフの絶叫だった。
激痛と恐怖に泣き喚(わめ)く断末魔が、こだまするように連続して鳴り響いた。
同じ痛みが、苦しみが、魔帝の五体にも容赦なく襲いかかってきた。
雷電の如き断罪の声が耳を聾(ろう)した。
『貴様は民を食い物とした。
今度は禽獣に食われるがよい!』
ヨムニフは苦しみで意識を失ったが、そのたびに頬を打ち付ける電撃に目を覚まされた。
『師敵対と反逆の罪は、五体並びに精神が皆、離反することを以って現罰と成す。
五逆罪の現証を知るがいい!!』
腕が一本、もう一本もがれると、猛獣の子らはうまそうに貪り喰った。
シェブロンの声が、頭の中で繰り返された。
『なぜ死に急ぐようなことをするんだ!
お前にも“LIFE”があるんだぞ!!』
首が引き千切られる。
心身が錯乱する。
瀑布の如き激しい失血と、胴を次々に喰い破られる恐怖、尽きせぬ業苦に気はふれたが、どうしても意識を失うことはできなかった。
一見、残虐のように思われても、猛禽猛獣は、生きていくため、子孫を育むためにこそ餌食を求めてやってきたのだ。
彼らはただ食物連鎖の内に捕食されたに過ぎなかった。
運さえ悪くなければ生き延びる術もあっただろう。
だが悪逆の限りを尽くして断罪された彼らには、もはや命運というものがなかった。
ここで喰い殺されるべくして死し絶えたのである。