第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 04 節「元品(がんぽん)の無明(むみょう)」
壊れた魔宮の奥に潜んでいたグルゴス一世は、人々がヨムニフの動向に気を取られている隙を見て、そそくさと移動した。
彼の狙いは「悪魔王の兜」だった。
それを拾い上げ、魔天に捧げ、自らの頭部に戴く。
すると、転がっていた甲冑まで引き寄せられて、魔帝の五体を飲み込むように装着された。
先にヨムニフが起こした、暗黒の渦が再び現れて、悪魔使いが言う所の「世界の中心」から、闇を以って全人類に報復し始めたのだ。
『我こそは最上優越の悪魔帝にして、世の一切を掌握せる者なり・・・!!』
足を踏み鳴らしただけで、立っている者が総スタンとなった。
フィヲが一人進み出て、堂々と宣戦布告した。
「世界は絶対に渡さない。
あなた一人を滅ぼすために、わたしは“LIFE”を求めたのです。」
レナフィーを通じてエナに呼び掛けた。
『お願い、みんなを地上へ・・・!!』
『わかった!』
七虹龍が降りてきて、魔宮の外苑に腰を下ろした。
ノイがシェブロンを促す。
しかし師は、ヨムニフを待った。
手を差し出すと、はたかれた。
「俺が今日の日のためどんだけ腐心してきたか!!
降りるわけにはいかないぜ・・・!!!」
そう言って邪悪な発動を起こそうとしたので、ファラが襲いかかり、シェブロンは元兄弟弟子の魔手を掴んだ。
「なぜ死に急ぐようなことをするんだ!
お前にも“LIFE”があるんだぞ!!」
強い口調で咎めたが、ヨムニフは振り払い、グルゴスのほうに寄った。
「では地上で待つ。
また戦おうじゃないか。」
シェブロンがギロス=モルゾムに乗り、ノイも護衛して乗った。
「ここはお任せください!
必ずフィヲと帰りますッ!!」
「頼むぞ、先に降りている。」
帰還するルアーズが一瞥した。
「早く帰ってきてね!」
ファラはヨムニフとグルゴスの間に立った。
「お前に何ができると思っているんだ!?
今からでも引き返せ!!」
「黙れッ!
何だってやってやるさ!!」
暗黒の渦が巻いて、馬頭神モルパイェ=フューズが現れると、その喉に喰いかかった怪狼ヴィスクに噛み砕かれ、暴れ回り、そこを魔力が尽きるまでファラに吸収された。
もう一つの渦が羊頭神エンリツァーカ=ギールを呼び寄せると、妖狐ラナシーヴに引き倒されて散々に食い散らされるハメになった。
これもファラが魔力を奪い尽くすと、フィヲに注いだ。
彼女はグルゴスの発動を逐一、無効化していた。
「何かしているつもり?
現象がまるで現れないわ。」
魔帝は激昂して足を踏み鳴らしたが、今度は震動が起こらない。
「力もない、魔法もない、それで世界を掌握する?
どうやって??」
太い剣を取り出したが、バーベルを上げられない者のように落としてしまった。
持ち上がらないので短刀を出す。
「それは何をする道具かしら?
殺傷力がまるでないじゃない。」
ぐにゃっ、と溶け落ちた短刀が、グルゴスの手の平を熱で焼いた。
「後は?
まだ手があるのなら、来るといいわ。」
最後は拳である。
フィヲのバリアに当たり、コンクリートを打ったような打撃が返った。
「自傷行為はやめなさい!
本当に戦う気があるのかしら。」
ヨムニフは助けに入りたいが、動いてファラに討たれるのが恐ろしいらしく、一歩も踏み出せなかった。
「マナゾイフノが沈んでいる。
下降するわよ。
このまま落ちたい?」
万策尽きた魔帝、及び大憎生(だいぞうじょう)は、殺してもらえたらどんなに楽かと思った。
楽になど、誰が死なせてやるものか。
無限大に積み上げた悪業というものを、その一身に受け切らないならば、ただ死ぬことに意味など全くないからだ。