第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 03 節「諸余怨敵皆悉摧滅」
すると突然、激しく息を衝いて、猪頭神ワヌラィーグ=シュトリッテオが魔宮の淵を這い上がってきた。
ルアーズが逸早く察知して駆け寄った。
「こいつは任せて!」
「ルアーズさん、それはフィフノスです!
倒したのに、逃げてきたみたい!!」
いざとなればファラもフィヲも動ける。
ここでフィヲは八部衆の乗員に呼び掛けた。
「みんな、“LIFE”の出力を強めて!!」
「よしっ、一気にやっつけよう!!」
それぞれが返事して充填を強化する。
イノシシの絶叫が鳴り響いた。
決して電撃を与えているわけではない。
中央に「ゼエウ(空)」を配置しているのである。
にも関わらず、猪頭神は高電圧に捕らえられた如く苦しみのたうち回った。
やがて、ジュージューと湯気か煙か立ち昇らせて、死屍食鬼フィフノスが姿を現す。
元の姿に戻っても苦しみ続けていた。
「悪魔結社を組織して、たくさんの人生を誤らせた。
だから他の術師と比べ物にならない業苦を受ける。
・・・当然よね。」
膝をガクつかせ、地面に手を着かなければまともに歩けない。
だが魔法を詠唱し出した。
「いけない、グルガを、いくつもいくつもつなげている。
威力を増幅する方陣を組み立てている。」
フィヲが撃とうとするよりも速く、ルアーズの蹴撃が術師を絡め取った。
両足を使って首を挟(はさ)み込み、捻(ひね)り倒すように蹴落とす。
ドシン、と両手を着いて這いつくばったが、まだ害意は消えない。
起き上がろうとするので、顔面に力いっぱいの平手打ちを加えた。
蹴りよりも凄まじい威力が出て、魔宮の壊れた外壁までふっ飛んでしまった。
頭部に激しい衝撃を受けたために、思考が停止したようだ。
もはや詠唱は起こらなかった。
「フィフノスの悪心が、感じられなくなった?」
「さすが“LIFE”を込めると、生命を奪わずに悪心だけ滅するのね。」
敵は皆倒れ、最後に師シェブロンと邪師ヨムニフの対決を残すのみとなった。