第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 03 節「諸余怨敵皆悉摧滅」
少女エナが七虹龍ギロス=モルゾムを召喚すると、その背にはファラ、フィヲ、ルアーズ、ノイ、シェブロンが乗り込んだ。
「ヒーリングに専念していいわ。
エナちゃんのことはわたしとレナフィーが絶対護るから!」
「わかった、ありがとう!」
フィヲは素直に、「いい子だな」と思っていた。
エナを護ると言ったが、八部衆の乗員全員を一方向性の無敵バリアで護る。
無限とも思われる魔力が、果たしてあるのだろうか?
実際フィヲにはそれがあるのだ。
太陽も月も、無数の星星も、大気や大地や大海も、世界を構成する十六種類の魔法が、元素が、一つも反することなくフィヲに従い、フィヲを助けようとしていた。
つまりは神々の願いと“LIFE”の願いとフィヲの願いが完全に一致して、宇宙そのものを動かしていると言ってもよい。
これはフィヲが選ばれてなったのではない。
本来、誰しも彼女と同じ願いを持って生涯を貫くことが可能なのである。
七色に輝く龍族の王は、高く高く舞い上がった。
更に上空の、神獣マナゾイフノと視線がぶつかる。
「エナちゃん、戦わなくて大丈夫!
わたしたちに任せて!!」
神獣は六本の翼で羽ばたきながら、天の魔宮を抱えていた。
砂嵐のように大空を遮っているのが、悪魔とその眷属の大群だ。
先んじてヱイユが敵陣に斬り込み、ガルーダを喚ぶ。
黒龍の群は慌てて散り散りになる。
次々と捕食に遭う。
だが悪魔は手強い。
取り巻かれ、ヱイユが標的とされる。
ガルーダも守りに転じる。
魔宮の外苑から飛び立った魔天女ヒュルムンが、まとわりついてヱイユを苦しめた。
この時、彼の耳にムヴィアの声が聞こえてきた。
『ヱイユ君、魔族は引き受けるわ!』
城の形すら見分けられないほどの距離を隔てて、リザブーグ城の屋上階に立ったリーシャが、美しい紫色の髪を靡かせていた。
「パナさんッ!?
地上にも布陣しているのか・・・!!」
リザブーグ城を中心とする巨大な七色の魔法陣が、上空からもはっきり見て取れた。
あとは魔天の崩落というのが実相の現れだろう。
黒い塵のように見えていた悪魔、翼人、黒龍の残党、終末のヒュルムンらを、まとめて大地の魔法陣目掛けて真っ逆さまに落としていく。
皆、大地の養分となって消え果てる。
しかし崩落が止まらない。
リーシャ自身も大地からヒーリングを受けているが、一瞬、目眩(めまい)がして意識を失いかけた。
その魔法エネルギーのバランス変化を感じ取ったのか、床に伏していたタフツァが数日振りに目を覚まし、飛び起きた。
「よかった・・・!!
大丈夫?
何か感じるの??」
ヤエは喜んだが、まだ心配なのだ。
「・・・どこか、屋上だな、すごい魔力だ。
肩を、貸していただけませんか・・・?」
すぐに起きようと言うのは賛成しかねたが、あまりの真剣さにヤエは心を打たれた。
「ええ。
あなたが行くと言うなら私が支えます。」
二人はゆっくりと身を起こし、立ち上がって、階段へと進んで行った。