第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 01 節「師敵対を弔(いぐる)む」
少女エナの召喚で、七虹龍ギロス=モルゾムが飛翔し、その背にタフツァが乗り込んだ。
入れ替わりでフォレストリザブルグに入ったファラが、フィフノスと面会する。
「さあ、表に出ろ!」
“LIFE”の方陣を解いたりはしない。
目を真っ赤に光らせ、眉を吊り上げ、頭表に血管を浮き出して、髪を逆立てたフィフノスが、業苦(ごうく)に苛(さいな)まれながら起き上がり、歩き出す。
一歩、一歩に電撃のような激痛を伴うようだ。
「ぼくは何ともない。
全て、お前がしてきた罪の報いだ。」
あまりの激怒に、悪鬼は頭の血管が破れ、一瞬、目の前が赤から緑へ、そして黒へと移ろった。
ドサッ、と倒れたが、片腕を着いて苦しそうに喘(あえ)ぎ、起き上がる。
外ではフィヲが、女性の騎士たちに話をしていた。
「ガイコツを、砦(とりで)の外側へ追いやって。
後から出てきたら、わたしたちが引き受けます。」
アンデッドに対する掃討(そうとう)作戦が始まった。
気違いじみた猛者(もさ)の成れ果て共(ども)は、錆(さ)びた剣を振るい、折れた棍棒を握り締め、鉄の鎖で打ち付けてくる。
だが勢いのみだ。
筋肉を失った骸骨には、しなるような力強さはなく、ただ獰猛(どうもう)な恫喝(どうかつ)と、瞋恚(しんに)の黒い炎を燃え上がらせている。
そこを薙(な)ぐ。
両断する。
突き飛ばす。
術士の魔法によって、骨格だけ復元されているが、バラバラにしてしまえば、骨単独で動き回ることはなかった。
凄まじい勢いで女戦士ルオミアが骸骨を駆逐する。
粉砕する。
ねじ切る。
蹴倒す。
「操っている魔法使いがいるはずだ。
みんな油断するな!」
アンデッドの動きを見、仲間の戦いぶりを見るにつけ、フィヲもどこに術士がいるのかと目で追っていた。
外へ外へと拡大する戦線の中心部にいて、まだ新たなアンデッドは出現しない。
そこへファラが出てきた。
「そんな体でどうやって戦うつもりだ!?」
怒りに気が狂って、獣のようになったフィフノスが砦を這(は)い出た。
ファラが急激なテティムルで敵の発動を封じる。
一気にゾーで動作も封じる。
その肩を、ドカッと蹴飛ばしてフィヲから遠ざけた。
両手を地に着いて、野犬のように全身を身震いさせて反撃しようとするフィフノスに、情けも容赦もなく“LIFE”の剣撃を叩き込む。
捻転(ねんてん)してのたうち回った悪鬼の両角を掴(つか)み、持ち上げ、顔面を蹴る、何度も何度も蹴る。
やがてフィフノスが被(かぶ)っていた動物の頭蓋骨が砕けて、これまでも目にした顔が見えた。
皮膚がない、神経が剥(む)き出したような悪鬼の相貌(そうぼう)である。
「自分で立て!
ぼくはお前を許す気はない。」
無刃刀で襷(たすき)斬りにする。
打たれてノックバックする。
まだ追った。
“LIFE”で滅多打ちにされて、すでに意識は朦朧(もうろう)としている。
だからと言って、攻撃をやめる理由はない。
ふらふらと立ち上がろうとする所を、力いっぱい転げ倒した。
「何をしている、フィフノス!
まだ力尽きてはいないはずだ。」
今度は打たれた威力で力なく転げに転げ、木の根本にぶつかって、ゴロリと横たわった。
「出てこい、アンデッド使い!
次はお前だ。
八つ裂きにしてやる!!」
南西からの不気味な風、青紫色の魔力、というより妖気のようなものを感じてファラが振り向くと、フィヲがじっと視線を向ける方向に魔術師が立っているのが見えた。
冥界師マーフェリンだ。
「フィヲ、ぼくに任せて。
フィフノスを見張っていてほしい。
ホッシュタスも来るだろう。」
「わかったわ!」
つむじ風のような妖気が木の葉を粉々に砕いて吹き飛ばしている。
当たればダメージを受けるだろう。
だがあえて、ファラはアンチ・トゥウィフのロニネを纏(まと)い、渦巻く妖気の只中(ただなか)を斬って割った。