第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 01 節「師敵対を弔(いぐる)む」
昼食の席でも、フィヲはファラの隣に座った。
「ねえ、飲み物は何がいい?」
「ホットティー。」
「じゃあ、わたしもー。」
トレイを取ってフィヲが立ったので、ファラは皆の様子を確かめた。
御者のウィロがいる。
分厚い魔法の本を開いたままだ。
タフツァが森の砦にいるのは聞いていたが、ナズテインもここにはいない。
やがて女性の衛兵に支えられて、老婆ヴェサが入ってきた。
目が不自由になったのか。
フィヲを見つけられず、ただ名前を呼んだ。
ハッ、とトレイをテーブルに置き、フィヲは返事をして駆け寄った。
「おばあちゃん、ただいま。
フィヲです。」
「おお、会いたかったよ。
また背が伸びたんじゃないか。」
「そうかしら、・・・うん、そうね。」
ファラが気遣って声をかける。
「一緒にお茶をいただくのがいいよ。」
そしてウィロの向かいに腰かけた。
「こんにちは、ぼくはファラです。」
「ウ、ウィロです!
あの、魔法のことで分からないことがあって・・・。」
「どれどれ?
ぼくに分かることなら。」
本には魔法を道具に宿らせる「ワーガム」の文字が描かれていた。
「効果はどれくらい続きますか?」
「ワーガムも“LIFE”の一分(いちぶん)だから、術者の願いや思いが強く表れるんです。
ぼくなら、目的を遂げるまで切らしません。」
年齢は同じくらいなのだが、ウィロは感動しやすくて幼く見える。
目を輝かせて更に聞いた。
「それなら、込める威力は!?」
「限りある魔力の中で使うなら、持久戦になります。
込め過ぎて力尽きるわけにもいかないし、まだワーガムが必要なのに切らしてしまったら敵に押されるかもしれない。
慣れてくると、みんな大地からのヒーリングを得て戦っています。」
「わぁ、僕もそんなふうになりたいなぁ・・・。」
「武器にかけますか?」
「・・・投げ縄!」
今度はファラが驚いて、瞳を輝かせる。
「捕縄に使うんですか!?」
「は、はい。
術士を捕らえるには、ただのロープだと逃げられそうで・・・。」
「動物や、逃走者を捕まえる腕前がすでにすごいですよ!
その技術で、魔法を込めて術士を捕らえれば、ひとたまりもないはず。」
ウィロはまだ実戦経験から来る自信はないのだが、田畑を荒らすタヌキや大型のネズミを捕らえる仕事をしたこともあり、役に立てるかもしれないと、嬉しくなった。
そこへフィヲが来た。
ヴェサは長い時間立つことも座ることも困難になり、再会を喜んだ後、衛兵の力を借りて部屋に戻っている。
「フィヲさん、以前はテンギ戦のお話ありがとうございました。
タフツァさんも助かったと思います。」
「神獣が、現れたんですって!?
テンギとはまた戦うことになりそうね・・・。」
「ホッシュタスの動きが不気味だよ。
どうやって戦えばいいのか・・・。」
オルブームで三人の高位魔術師と対決して破ったが、ホッシュタスとフィフノスはそれ以上の難敵に思われた。
「ぼくはこの後の会議が重要だと思っている。
ウィロさんにも加わってほしいんです。
どんな人選で行くことになるか。」
「空閑(くうげん)にあるという、魔の神殿ね・・・。
敵の思うつぼじゃないかしら。」
「そうだね。
糧道を絶って籠城させる。
今度は防衛戦じゃない。
LIFE総勢による、『空中戦』になるだろう・・・!!」
この構想は、まだファラだけが思い描く作戦だった。