第 12 章「八葉蓮華の妙法」
第 01 節「師敵対を弔(いぐる)む」
スヰフォス学師はシェブロンの覚悟を聞いて即座に言った。
「そのような者と、先生自ら対峙されるおつもりですか?
・・・いけません、タフツァさんに託されてはいかがですか。」
「ヨムニフは“LIFE”を破る者です。
放置することはできません。
そして、師ラオンジーウの名を貶(おとし)める者です。
タフツァ君はラオンジーウ先生の弟子ではなく、私の大切な弟子です。
ラオンジーウの敵は私の敵。
師の敵は必ず弟子の手で討つべきです。」
スヰフォスとて言わんとしていることは重々承知している。
しかし民衆が希求して止まない“LIFE”の師となったシェブロンが、万に一つでも倒れるようなことがあったら、世界はどうなってしまうのか。
古くから最も“LIFE”に背いたリザブーグの王宮に、シェブロンが万人の師として迎えられたからこそ、各地の門弟たちは戦い、勝利できた。
いずれは後継者としてのタフツァがシェブロンに代わって立つ日も来るだろう。
その時のためにこそ、スヰフォスは自分が身代わりとなってでも、シェブロンに生きてもらいたいと願った。
「凶悪な敵の前に為す術もない、弱いLIFEではいけません。
卑劣な罠に倒れることも許されない。
“LIFE”の力によって、必ず勝たなければなりません。」
「では先生。
このスヰフォスが、必ず勝てるとお認めするまで作戦を練っていただきます。
決戦はわたしの責任で勝利にお導きしましょう。」
厳しい表情が緩んだ。
二人は固く手を握った。
絨毯を敷いた階段を、駆けて上がってくる音がする。
ファラが来たかと思ったが、扉を開けたのはフィヲだった。
「先生!
オルブームから無事、戻りました!!」
「おかえりフィヲ、よく戦ってくれた!」
まだ幼い少女のように、育て親であるシェブロンの腕(かいな)に飛び込んだ。
あまり走るのでファラのほうが遅れて入ってきた。
師の前に膝を着き、騎士の礼を執って報告する。
「オルブームに四部族からなる同盟を築くことができました。」
「よくやった!
根深い対立を越えたな。」
「はい。
サザナイアさんが戦士を育ててくださいます。」
「心強い。
ザンダは大役だったろう。」
「部族同盟と手を携えて、ロマアヤとオルブームの同盟も成りました。」
「そうか、立派になったな!
父君母君がきっと喜ばれているよ。」
あまりに危険な戦いと、恐ろしい最果てを見てきただけに、フィヲはシェブロンが作り出す、何とも言えない安心感に包まれて、ようやく心が休まってきた。
「まずゆっくりしなさい。
食事が済んだら話を聞いてほしい。」
フィヲとは対照的に、ファラは師の覚悟を察して戦慄した。