第 11 章「究極の魔法」
第 07 節「ルング=ダ=エフサ」
洞窟の入口に首を突っ込んで、村人を捕食しようとする黒龍がいる。
少年剣士ルオが剣で突く、押し返される。
少女エナが叫ぶ。
「ルオ!
“LIFE”よ。
練習してたじゃない!!」
「よぉぉぉーーーし!!」
ガツンと、頭部に打撃が入り、七色の虹がはじけた。
ドラゴンは洞窟から首を出し、よろけて後ろに倒れた。
「上手!」
「できたッ!!」
二人は外の様子を見た。
子供の目にも、ノイや衛兵だけで手に負える数ではない。
「ねえルオ。
私が外の地面に魔法陣を描く間、竜が来たら今みたいにやっつけて!」
「わかった!!」
エナが走って洞窟の外にある砂地に到る。
急いで、それでも丁寧に、魔法の文字を書いていく。
外側の虹が架かる時、竜族の急襲があった。
「・・・テダン!!」
空を黒く覆った竜をも射ち貫いて、迸(ほとばし)った雷電が攻め手を裁き倒す。
駆け出しかけたルオが驚いて立ち竦(すく)む。
「こっち、円の中よ!!」
呼ばれるままに、ルオも魔法陣の内側に退避した。
次の攻め手が外円に触れた時、七色の光の帯が筒上に走って撃退した。
「インツァラ!」
群がり集った竜たちが爆風に見舞われる。
「グルガ!」
老齢の竜がバタバタと倒れ、その生を終えた。
「ロニネ!」
地上に半球状のバリアが張られ、拡張して、一帯の竜族を空まで悉(ことごと)く退けた。
「ゾー!」
空を覆った竜族が、雨のように、小隕石のように、数多(あまた)と落とされ、地面を砕いた。
「テティムル!」
現象を伴う発動によって魔力を消耗していたエナに、大地から、海から、倒れた竜族から、奔流のようにエネルギーが注がれ、満たされた。
「ドファー!」
舞い降りる竜たちが黒い点のように小さくなった。
よく見ると、それは蝿(はえ)だった。
ようやく、群を率いて来た黒龍王ギロス=モルゾムが降臨し、ヒトの言葉を放った。
『よくも、小娘!
何者だ!?』
しかしひたむきな少女は詠唱と布陣を止めない。
「メゼアラム!!」
忽(たちま)ちに黒龍王は捕らえられ、今度は七色の光を帯びて放ち返された。
エナの召喚となったギロス=モルゾムは、眷属に退却を命じているが、殺到して、従いたくても従えない群が残っていた。
「トゥウィフ!!」
凡(およ)そ人が起こし得る、最大級の衝撃波が、竜族の大群をまとめて押し退(の)け、崩落させ、壊乱して、もはや島の上空には竜がいなくなった。
同時に、少女エナの“LIFE”が完成した。
ルング=ダ=エフサは、そして世界は七色の光に包まれ、戦い傷付いた者を癒し、害する者を呵責していった。