第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
空閑(くうげん)に在って暗雲を纏(まと)い、一帯には毒蛾が群がり、それを捕食する蝙蝠(こうもり)、鴉(からす)、黒龍を集めている浮遊城がある。
これが「天宮魔神殿」だ。
その最奥、魔皇帝の間がある六階は、けたたましい足音に揺れていた。
グルゴス帝が各地から家臣を召集し、宣勅を下すという。
黒騎士ガトレーンは、六百人の手下を従えて登殿した。
「あの雷(いかずち)の如く、我らの世を乱そうではないか!」
士卒が声を荒げる。
女騎士ロールウェールも付き従う。
ボルフマンの姿もあった。
奇術士ヨンドが魔具職人ハイボンに肩を借りて階段を登る。
「まったくひでぇ目に遇った!
あいつら、生首にしてしまえ!」
ハイボンがケタケタと肩で嗤(わら)った。
呪士フラハが続き、怪人ラモーも、さぞつまらなそうに地面を蹴っている。
魔帝の広間前方には、厳めしい上級魔術師たちが居並んだ。
霊媒師ドマノク、精霊師ベナイザ、異界師アムゾイル、冥界師マーフェリン、幻界師イノイ二スである。
四面を埋めるように悪魔たちが蠢(うごめ)いている。
奇怪な嗤(わら)い声がそこかしこに起こり、柱に掛けたランプの青暗い炎が燃え上がったり揺らめいたりした。
バルコニーに、物々しくも美しい獣が二体、降り立った。
神獣マナゾイフノ、霊獣クザムナリスである。
その啼(な)き声は大空に変電現象を引き起こし、紫色の電光が走った。
ここへ招いたのは妖艶な女の悪魔、ミュネフィ=リットワッドだった。
彼女はバルコニーの扉を開け、前から広間に入ってきた。
ヒユルの容姿だが、髪はブロンドになり、瞳は透けるように青く、カコラシューユ=ニサーヤがまとわりついている。
ニサーヤの全身もブロンドになっていた。
黒騎士たちは女悪魔を怖れて道を開ける。
広間入口まで道ができると、そこからヨムニフ大憎生(だいぞうじょう)が現れた。
高圧的な魔導着に、まるごとの人骨、・・・角の生えた鬼だろうか、が埋め込まれた、悪魔王の杖を持つ。
魔の一族も勢揃いし、ヨムニフが王の間に向かって頭を絨毯につけるほどの礼を取ると、重厚な金属音を轟かせてグルゴス一世が異形の人影を覗かせた。