第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
「ファラさん、もう一人、術士がいます・・・!!」
サザナイアが叫ぶと、ダッツ、ポートルが加勢に戻ってきた。
雪のように白い肌と緑の瞳を持つランラ族の特徴を有した、ムッキアと呼ばれる術士だ。
彼はこの日、ヅモノと同行していた。
黒ローブの下にヒツジの頭蓋骨をかぶっている。
動物の骨を研いで作った長い槍で、カエルやトカゲ、コウモリが貫かれていた。
「ヒィィ、気持ち悪い・・・。」
思わずバミーナが顔を背ける。
手のひと振りで、何かの液体をバラ撒いてきた。
フィヲがロニネを張って味方を護る。
地面に落ちた液体は、黒煙を上げて落ち葉を焼いた。
『酸か、毒か・・・。
こんな危険な人間が野放しで徘徊しているとは。』
ファラが出方に迷う。
ザンダが言った。
「捕まえていいだろう、悪さができないように。」
サザナイアも頷く。
何をしてくるか分からない敵に、好き勝手を許してはいけない。
魔法発動用のプレートを振り翳して、ザンダがムッキアに「ショック」を与えた。
立て続けに巨獣化したヅモノにも放つ。
断動したムッキアを、攻撃型ロニネのバインドで捕縄した。
ヅモノはいきり立って地踏(じぶ)みし、大きな蹄(ひづめ)で反撃に出る。
重量がかなりある。
地面がズシン、ズシンと揺れた。
ドガァよりも大きい。
しかし獅子は畏れない。
鋭い爪を雄羊の左肩に突き刺す。
血が流れ出る。
首に咬み付く。
絶叫が響く。
肉食獣に情けも容赦もない。
ただ食肉あるのみだ。
左腕で巨大な曲角(まがづの)を押さえる。
更に深く喰らい付く。
右腕で相手の左脇腹を捉える。
横倒しに押し倒す。
喉笛に喰らい付く。
蹄を押さえ込む。
左腕の付け根に咬み付く。
馬乗りになって頭部を殴る、爪で引っ掻く。
四肢を痙攣させ、雄羊は意識を失った。
「ドガァ!
よくやった。
そこまででいい。
そいつの肉は美味くないだろう。
ご褒美はちゃんとやるからな。」
雄々しいライオンは誇りも高く、敵に完敗を喫させ、その憐れなヒツジの上から降りた。
そして咆哮が轟くと、ザンダは耳を押さえ、ムッキアは縮み上がって昏倒し、ファラたちは腹の底から笑った。