第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
オルブーム大陸もランラ族領に入ると北極圏が近い。
北端には積雪地帯もある。
北緯はレボーヌ=ソォラより高い。
「そろそろ防寒装備が必要ね・・・。」
アゴー族の女性が語る。
『すぐランラの村がある。
ワリヒと仲違いをしてきたのは生活文化の違いからだ。
決して悪い人々ではない。』
一行を包むように、フィヲが寒さを和らげるバリアを張っていた。
「気をつけて、人の足音だ。
・・・二人いるな。」
サザナイアが隊列から離れて回り込む。
ナーズンとバミーナが左右に分かれて木陰に身を隠す。
ベリオングが正面に構え、ダッツとポートルは進路に危険がないか、先回りした。
東の森から、黒い肌に赤い瞳、茶色の体毛、黒い獣の毛皮でできたローブを羽織った術士が現れた。
『タウサーのヅモノ!
妖術で村を混乱させる術士だ。』
風貌は部族に共通する特徴を持つ。
しかし黒ローブは悪魔結社マーラの一員であることを示していた。
『(首がなくても歩けるか、転ぶか、クカカ。)』
アゴーの女性が顔を青ざめた。
『何を言っている!
お前は何が目的だ!?』
『(飛べる、飛べる、首が、飛べる!
クカカカッ。)』
ワリヒの男性たちも意味が分かったらしく、ヅモノから離れた。
「・・・フィヲ、手の内が読めるかい?」
「まだ、でも集中しよう。
わたしが何とかする。」
一瞬で赤黒い魔法陣が立ち上がり、子山羊のような動物が召喚された。
その数が二頭、三頭と増え、十頭ほどにもなった。
居合わせるLIFEメンバーと同じ数だ。
各々に寄り付いて来た。
「みんなッ、姿に惑わされないで!
凶悪な魔獣と思って、飽くまで戦おう!!」
突然、ザンダに近付いた子山羊の首が刎(は)ね飛んだ・・・。
「キャャャー!」
「何てことをするんだ・・・!!」
ドガァが目の前の個体を払い倒し、噛み上げて術士のほうへ投げやる。
ドサッ、と地面に落ちた時、そこにヅモノはいなかった。
ファラが慌ててアンチ・メゼアラムを立ち上げる。
だが子山羊は一体ずつしか消えなかった・・・。
サザナイアに前肢をかけた個体の首が膨張したので、咄嗟に剣で凪ぎ払う。
また首が飛んだ。
『(オレはヒツジ、さ迷うヒツジ、クカカカカ。)』
今度は目の前に、大きく狂暴な雄羊が現れた・・・。