第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
タフツァは一瞬、目眩(めまい)を覚えた。
意思の力で振り払う。
滑走で術士を追いかける。
標的が木に激突した。
付近へ駆け寄る。
落下を緩衝する上向きの力を加える。
ただ助けてやるのではない。
今度は気を失わせるのだ。
短時間に魔力を失わせる「ショック」を用いる。
口をポカンと開けて気絶した、悪鬼の身柄は確保した。
あとはどうやって捕縛しておくかである。
攻撃型ロニネの輪で捕縄する。
倒木に腰を下ろした。
「こんなに魔力を使ったのは、初めてじゃないか・・・。」
放出しては供給を受け、キュキュラ(総力)を何回撃っただろう。
普通ならば死んでいる。
逃亡中のホッシュタスが気にかかった。
今、襲撃されたら・・・。
LIFEの通信拠点に近いと気付いて、フィフノスを警戒しながら立ち寄った。
リザブーグ城のスヰフォスを呼んでみる。
取り次ぎの兵が出て、待つことになった。
比較的速く応答があった。
「おお、タフツァ君か、動向は?」
それは師シェブロンだった。
「先生、ご心配をお掛けしております。
フィフノスと交戦し、捕縄しました。」
「そうか、君の体は?」
一瞬、言葉が詰まった。
この際、師に隠し事はかえって良くない。
「大地と、大気、敵から、供給を受けながら、・・・何度も総力発動を起こしてしまいました。」
「やむを得ないが極めて危険だ。
ウィロ君は?」
「戦闘になる前に帰還させました。」
「君一人だな。
救援があったほうがいい。」
しかし術士は出払っている。
「私が行くよ。」
「外はあまりに危険です。
先生の敵が多くいます。
今回も弟子にお任せください。」
そこへスヰフォスが応答に来た。
「タフツァさん、騎士団を手配しました。
術士に気をつけて、そこにいてください。」
「ありがとうございます。
先生には新しい弟子の育成を、どうかお願いいたします。」
通信機を置く。
ふぅー、と安堵の息を衝く。
フィフノスは目を覚ましていない。
ずっと注視していたのだ。
扉を出て施錠する。
風の音がやけに耳につく。
テンギの柩車は狙われていないだろうか。
交戦中、彼は合成獣を元の個体に分離するアンチ・マジックを試みた。
だが分離しなかった。
つまり、あの猪頭神ワヌラィーグ=シュトリッテオは今、合成獣としてではなく、フィフノスの召喚獣として扱われているようなのだ。
それだけでなく、彼自らが変化していたらしい。
悪魔結社マーラの首謀者がLIFE騎士団の護送を襲撃するという、未聞(みもん)の災禍となったのである。