第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
フスカ港に近いリザブーグの森中、巨大な金属の棺に収められ、特製の車輪をつけて運搬される者があった。
千手の鬼神と言われたテンギである。
沿道はLIFE騎士団によって護衛され、殿(しんがり)に少年ウィロの御するタフツァの馬車が続く。
しかしホッシュタスの姿はなかった。
あれだけ厳重に監視したにも関わらず、煙の如く逃亡されてしまっていた。
タフツァは報復を警戒している。
なぜホッシュタスが、マーラが、ここまで執拗にテンギにこだわるのか。
彼は合成生物ではなく、生まれながらの複合体だ。
アンチ・マジックによって結合が解かれることはない。
更にカーサ=ゴ=スーダの少数民族の血を引いていた。
この血を持って生を受けた男児は極めて珍しく、過去、いずれも凶事を引き起こした。
「魔法の血」と呼ばれた一族の、女児の魔力をはるかに上回るという。
作ろうとして作れるものではなく、得ようとして得られるものでもない逸材がテンギであった。
タフツァは今回、死傷者が出てもおかしくない困難なミッションにあたり、全軍に徹底した。
『魔の一族と住民の接触がないこと。
妨害があれば遠ざけること。
空襲は迎撃するが、テンギに触れさせないこと。
各部隊長は全員の生還を第一とし、個別に判断して撤退すること。』
ここに生命を張るのはタフツァである。
ウィロを巻き添えにするつもりは毛頭ないが、彼自身と運命を供にすることを命じていた。
「襲撃があればぎりぎりまで馬力を以って接近する。
常に退路を確保しろ。
僕の合図で退却に転じてくれ。」
伝令が飛んで、速度を上げる。
道を確保するため、先導部隊が活動している。
轟音をうねらせ、馬を嘶(いなな)かせて、警備態勢を引き連れた護送となった。
左右の木に竜が降り立つ。
ボウガンで威嚇する。
魔法銃で追い払う。
LIFE騎士が応戦し、車の軌道を敵襲から逸(そ)らす。
翼人が舞い降りる。
これは元々の人間だ。
剣閃を交える。
行軍の外側へ押し出していく。
タフツァはただ一つのことを警戒していた。
それは術士の襲来である。
車を寄せて、伝令が伝えた。
「巨大なイノシシの怪物が現れました。
人型で翼があります。」
「合成悪魔だ。
交戦するな。
どの方角だ?」
「北西です。」
「南側に警戒して、軌道を修正してくれ。
僕が応戦する・・・!!」
ウィロは柩車の後方から右側へ回り込み、北西に馬首を向けた。