第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
アゴー族の領内で、ヤコハ=ディ=サホを迂回して北上するファラ一行(いっこう)に、激しい雨が降り注いだ。
「竜が降らせる雨みたいね・・・。」
「うん、ヱイユさんじゃないかな。
もうすぐ合流できるかも!」
「そんなことまで分かるの!?
普通の雨との違いは?」
「渦巻いているのが竜の雲よ。
中心に大きな竜がいて。
けど、感情が気象として表れているだけで、竜がいつも雲をまとっているわけではない、かも。」
ファラとフィヲの語尾がかぶったので、三人はまた笑い転げた。
そこへ、人の気配に警戒しながら、草むらの中を接近してくる物音が聞こえてきた。
ワリヒの青年たちが身構える。
現れたのは、動物の毛皮を着て、長い首飾りをかけ、髪を高く編み上げた、アゴー族の女性だった。
ワリヒ族が日焼けした肌色なのに対し、アゴー族は元々の黒褐色で、瞳が透けるように青かった。
動物の角が付いた槍で威嚇している。
高音の呼び声を上げる。
ハンターだろうか、仲間を呼んでいるようだ。
ワリヒの人々が怒声を浴びせた。
「まあまあ、ケンカしないで、ぼくは味方ですよー!」
そう言って剣と盾を置き、ジェスチャして見せた。
一瞬、女性は身構えを解くかに思えたが、やはり他の部族を敵視しているらしい。
フィヲもファラに習った。
「ねえ、仲良くしましょう。
わたしはフィヲ。」
攻撃されることなく、手を取ることができた。
これはどの民族にも友好的な行動だ。
ファラも遠慮気味に手を取ろうとする。
三人が互いに手をつなぐと輪ができる。
女性ハンターが笑った。
サザナイアはワリヒの代表を連れてきて、五人の輪を作った。
アゴーの女性とワリヒの男性は、容姿に惹かれるものがあるようだ。
はにかんで伏し目がちにあいさつできた。
言葉は微妙に伝わらない。
だがマーゼリアから来た三人よりは会話ができた。
ワリヒからアゴーへ嫁いだという娘の姉妹が書いた、両部族に通じる手紙を取り出す。
すぐに誰のことか分かったようだ。
女性のハンター三人が警戒して駆け付けてきた。
そこにはもう、部族の対立も分かり合えない畏れもなく、笑い声と輪への招待があった。