第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
力なくヒユルが倒れかかってくる。
背後に何かの気配が現れる。
アーダが身構える。
次の瞬間、凪ぎ払われるように転倒した・・・。
振り返ると、色白い妖艶な女の魔族が、細く鋭い鎌をアーダの首に懸(か)けてニヤけていた。
『ヱイユさん、会いたかったわ。』
ゾッとする。
ヒユルを地面に横たえたが、冷たい手で上衣の裾を掴まれた。
剣で衣類を裁(た)って悪魔に立ち向かう。
『わたしはミュネフィ=リッドワッド。
その娘を頂きにきたの。』
「許さない。
俺がお前を葬り去ってやる・・・!!」
もはや怒りと狂気の感情しかなかった。
アーダがメゼアラムに還り、無意味になった鎌を打ちに行く。
だが素早い、飛び上がられた。
ヒユルとの間に入る。
警戒も虚しく、打ってこないばかりか、素手で頬に触れられた・・・。
皮膚が破られたか、毒でも盛られたか、否、何もされていないようだ。
構うものか、生命を持たない精神体ではないか。
猛然と斬りに行く。
しかし、見えない壁に阻まれて近寄れない。
『珍しいでしょう、私のペットは透明なのよ、フフフッ。』
未知の力ほど恐ろしいものはない。
ミュネフィ=リッドワッドとは、そうやって人心を掻き乱す悪魔のようだ。
ヒユルが首を吊ったような恰好で起き上がる・・・。
両足を引き摺って、ミュネフィのほうへ移動する。
肩を掴んで止めようとすると、先まで美しく見えていた皮膚が、すでに腐敗してドロリと溶けた。
これ以上、ヒユルを遊び道具にさせることはできない。
悪魔女にズーダ(熱)を与えてみる。
『そんなに熱すると燃えるわよ、ほぉらね。』
ヒユルの背中から炎が出た。
悪魔の幻術だろう。
それでも炎を鎮める。
体を担いで飛び退(の)こうとすると、あまりにもヒユルが重くなって、持ち上げられなかった。