第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
長老の木へと続く原住民の深い森に、再び光が差し始めた。
毒と悪夢にうなされたヱイユの眠りにも、久しく見なかった陽が差した。
「・・・パナさん・・・。
いやファラか・・・!!」
二人は実の母子(ははこ)である。
その生命から発する明るさ、強さ、まっすぐな心まで、よく似ている。
彼は起き上がる夢を見た・・・。
せっかくの光を雲が遮(さえぎ)る。
世界は再び蔭(かげ)に沈む。
遠くから、いや近くで、ヒユルの泣き声が聞こえてきた。
『いるのか、どこに・・・!?』
声が出ない。
不安であり、呼吸が苦しい。
胸も締め付けられる。
顔を手で覆って、声を出して泣いているのはヒユルに違いなかった。
だが立ち上がれない。
這うように、寄り添おうとする。
『ヒユル・・・。』
魔天に生を受けても、姿は美しい。
ヱイユは助けてやらねばと思った。
向き合うようにしても、まだ顔が見えない。
肩に触れようとすると、彼女の手の平から、真っ赤な血液が滴り落ちた・・・。
『たす、けて・・・。』
思考が混乱する。
そういえば、ヒユルは死んでしまったのではないか。
『私は、ヒ、ユ・・・。』
血だらけの顔を見たのか、見えなかったのか。
アーダが怯えながら怒声を発している。
現実のようだった。
ヱイユは腕を掴まれて、身動きがとれない。
振り払うこともできない。
ヒユルの、土にまみれた遺体が、確かに動いている。
「お前、何かに操られて・・・!?」
血を拭ったような顔が見えた。
目は虚ろであったが、やがて焦点が定まり、ヱイユの目と合った。
『・・・そんなことを言わないで、助けてあげたのだから・・・。』
不意に腕が握り潰され、鋭い爪が刺さる。
アーダが猛突進した。
初めて自分の力でヒユルを振りほどく。
「死者を弄んだな、貴様は誰だ・・・!!」