第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
妖狐ラナシーヴの眼が、黒翼の群を捉え、追跡していた。
怪狼ヴィスクも地上から追尾する。
オルブーム大陸の南、ワリヒ族の領地から、西のアゴー族領へ、荷車が駆けている。
ワリヒの若者三人が随行してくれた。
ファラは何度も振り返り、自分が車を引く、と身振りした。
若者たちは首を振って先を急げと示した。
遠く、樹上を睨むヴィスクが見えた。
鋭利な爪を立てて木を揺さぶる、後足をかける。
一帯の空気が震撼するほど、ドシン、ドシンと打つ。
木の葉が落ちる。
梢から、口に一人をくわえ、翼人と捕縛されたままの擬態師エモラヒを前肢に掴んで、ラナシーヴが駆け降りてきた。
ファラが滑走して駆け寄る。
がぶりと噛まれて振り払われたのは精神体の悪魔だった。
魔獣の手を逃れた翼人が、鎌を握って抵抗した。
威嚇するように得物を振り回し、ファラに刈り込んだ。
剣で弾く力に押され、翼人が後方へ跳び退く。
胸元から取り出した呼び笛を思いきり吹き鳴らした。
これを聞き付けて、上空に有翼竜が集まってきたようだ。
にわかに暗くなってしまった。
「まずいな、逃げ場がない・・・!!」
ファラが荷車に寄って防衛体勢をとる。
ヴィスクとラナシーヴが、一際(ひときわ)大きい黒竜に戦いを挑んでいく。
別の竜に、大地から現れた白蛇シラルルが喰いかかる。
それでも群がる腐肉食種の猛禽の如き黒い翼によって、たちまち視界が阻まれた。
『くそっ、ロニネが簡単に、破られるッ・・・!!』
突如、上空から女性の悲鳴が上がった。
聞き覚えのある声だ。
「きゃゃゃあっ、って、フィヲちゃん!
寝てる場合じゃないわ!」
サザナイアだ。
状況の把握と体勢の立て直しが速い。
折り重なった竜族を、まるで瓦でも割るように叩き斬り、地面に降り立った。