第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
ヨムニフが、およそ人間の感情として抱(いだ)き得る、最も醜い相(すがた)を現したのは、師ラオンジーウが正統な後継者にシェブロンを指名し、これを助けていくよう弟子一同に命じた時だった。
『なんであんな奴にッ・・・!!』
当時、封印塚の破壊を企てていた彼は、全ての魔法を一瞬に込めるというシェブロンの“LIFE”発動論を、表向きは支持してみせた。
彼はラオンジーウからシェブロンに継承された“LIFE”は無二の力であることを知っていた。
その力なくして動かしがたい法滅の世相も見てきた。
動かす?
何故、変える必要などあるのか?
愚かな人類宿命の帰結として、滅びていけばいいではないか。
滅亡の時こそ、我が古代魔法グルガを中心とした発動が行われなければならぬ。
ヨムニフは、師が歴訪の旅を続けたことになぞらえて、闇の一族を呼び覚まし、結束するため、修行と称して各地へ赴いた。
あまり熱心なのを見て、彼について行く門弟もいた。
師亡き後、シェブロンは苦悩しつつも、ヨムニフに幾度となく繰り返した。
「“LIFE”は純円の如き『円法』だ。
一つの魔法にとらわれていては実現できない。」
そんな時、ヨムニフは決まって嘲笑的な態度で言い放った。
「グルガがなければ“LIFE”とて欠円、『欠法』というわけさ、ぎゃっはっはッ・・・!!」
背を向けて立ち去る後ろ姿に、悪魔のような陰影が付き従っていた。