第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 10 節「“LIFE”の一法とは」
ラオンジーウが語ったことは真実の全てを表していた。
だがヨムニフの邪念は、これを自分に都合良く解釈した。
『オレはこの世で最も重大な秘密を手に入れた・・・!!』
当時の“LIFE”は、「二重に架かる虹」といった、誰にでも思い描けるものではなかった。
各魔法文字に対する深い理解、万般の知識、修行法と、長年の実践が不可欠とされた。
師が実践してきた通り、これら一切を漏らさず受け継ごうと、学問研鑽・諸国歴訪の修行旅を続けていたのがシェブロンである。
ヨムニフはどの修行でもシェブロンにはかなわなかった。
そして次第に、自分と似たような性分の学者らを集め、師ラオンジーウを讃えると同時に、シェブロンを非難するようになった。
「嫌だねえ、真面目腐って本ばかり読んで。
そんなに堅物(かたぶつ)で通していると、誰も後には続くまい。」
「ヨムニフ、先生が身命(しんみょう)を賭して護り、私たちに教えてくださった“LIFE”を、何としても後代へ伝えていかなければならない。
君も先生の指導で学者として大成できるのではないか。」
目を細め、歯噛みして睨みつける同門の顔が、シェブロンの心に暗く焼き付いた。
扉を蹴るように出ていった、自分勝手な徒輩の姿が哀(あわ)れで、彼は本気で悩んでしまった。
『未来に亘(わた)り、万人に“LIFE”を開く中には、ヨムニフのような尽きせぬ悪業を抱えて周囲の弟子たちを迷わせ苦しめる者もいるだろう。
しかし人は、生まれによって決めつけられるべきではない。
善くないものは善くないものとして、誰もが現在から未来へ、新たに善を修する機会を作らなければ・・・。』