第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 09 節「本有(ほんぬ)の発現」
膝に両手を着く。
視界が狭(せば)まる。
汗は滴(したた)り、呼吸は一層乱れていた。
精神力を消耗し尽くして、バグティムトは意志の力だけで立っていた。
「ファラ殿に、護っていただいたようだ・・・。」
大きな宿命を背負いながら、無邪気に健気(けなげ)に強敵へ立ち向かっていく少年の後ろ姿が浮かぶ。
涙が溢れてくる。
「俺もこの拳に、“LIFE”の魔法陣を、雨上がりの晴れた空に架かる二重の虹を描いて、打って出よう・・・!!」
まさにこの時、ファラの魔法陣の効果が切れた。
泥土(どろつち)を払い除(の)け、十の四肢を激しく痙攣(けいれん)させながら、全身に血を流したテンギが猛獣のように暴れ転げ出てきた。
「第八部隊よ、俺の拳を見よ!
そして後に続け、“LIFE”の魔法陣はここにある!!」
もう相手の動きなど見ていられない。
否応なしにテンギの拳を狙った。
一撃、巨体が後ろへ退け反った。
二撃、ボディを力いっぱい突き上げた。
獣さながら前屈みに構えていたテンギが、直立まで起き上がる、バランスを崩す。
その胴体を、腹を駆け上がり、掴みかかろうとする他の腕へ三撃、四撃と叩き込む。
何本かの腕は後ろへ回って地面に着いている。
左の頬骨を砕く、右のこめかみに打ち付ける。
目を怒らしたバグティムトに正面から攻められたテンギは、初めて恐怖を覚えた。
その額にハンマーナックルが炸裂すると、部下たちが集まって来て捕縛にかかった。