第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 09 節「本有(ほんぬ)の発現」
木の上で、気配を消した忍者ワダイルが機を窺(うかが)っていた。
レンジャーのピスムは、縄で手枷(かせ)・足枷(かせ)した虎を誘導して来る。
猛獣のことだ、すぐに縄を引き千切ってしまうだろう。
今はピスムに気を取られているだけである。
元々、虎が住む森ではない。
混乱を狙って何者かが放ったことは明らかだ。
かといって、ヤエの仲間である以上、殺生は自ら戒めている。
飽くまで捕縛するにとどめて、人が襲われる前にメレナティレへ連れ帰りたい。
縄を編んだ網が虎の上へ落ち、被(かぶ)さって絡み付く。
四つ角(かど)から伸びる縄の端を握ったワダイルが、木を駆け降りる勢いで捕らえにかかった。
手前二本の縄は短く握って、反対側二本の縄を長く持つ。
虎は前が塞がれ、後ろへ引っ張られる形となった。
手足の自由を奪われた怒りが爆発する。
しかし網は固く結われてしまい、どう足掻(あが)こうにも暴れようにも絡まる一方だ。
完全に身動きを封じることができた。
薬剤で催眠をかけ、ピスムが荷車を取りに行って収容する。