第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 09 節「本有(ほんぬ)の発現」
ファラの熱意に長老は心打たれた。
考え込んでいたが、しぶしぶ助言を与えてくれた。
『いかに部族が争っても、若い者どうしは曳かれ合うことがあるようでな。
・・・ここからアゴーへ嫁いだ娘がおる。
ワリヒと直接の関わりはないが、同盟のタウサーとアゴーが対立しているのだ。
ワシから何かしてやれなくても、あなたならばアゴーに敵意なく迎えられるだろう。』
そう言って、今はアゴー領に住むワリヒ族の女性宛に、姉妹から手紙を書いてもらえるよう、手配してくれたのである。
その頃、村の門で術師を見張っていた人々が騒然となった。
樹上から舞い降りた翼人たちに、エモラヒをあっという間に連れ去られてしまったのだ。
聞き付けてファラが飛び出す。
皆、血相を変えて指差す先は木々の上だった。
とっさにファラはヴィスクとラナシーヴを喚(よ)び、二手に分けて追跡させる。
「みんな、よく村を守ってくれた、ありがとう!
あとはぼくの仲間に任せて、休んでほしい。」
これまで森に翼人などいなかった。
動揺していたし家族に危険と安否を知らせたかった。
駆け戻る村人たちを励ましながら、ファラは召喚した魔獣たちの眼を追っていた。