第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 09 節「本有(ほんぬ)の発現」
一帯が静まり返っている。
この森で魔法の応酬など皆無といえた。
今起こったことは異変に他ならない。
羽虫がたかってきて、大鳥の死骸に群がった。
梢にとまってしばらく待ったリールは、他に外敵がいないのを確かめて飛び立つ。
森の景色に見慣れてきて気付いたことは、所々にではあるが、変死している動物がいることだった。
外傷なく体液を吐き出して事切れている無残な亡骸は、リールにも感じられる障気、毒気によるものだろう。
『毒か、ウイルスか・・・。
冒された餌を食べて死んでいるのか。』
メゼアラムで捕らえた魔獣たちはファラを離れて存在できない。
皆、最初は彼に牙を剥き、倒されたのである。
しかしリールは元々の仲間であり、メゼアラムに捕らえていない。
つまり今、ファラとリールはドファーで同化しているのみで、それぞれ存在することもできる。
『リールに野性生物を食べさせるのはやめよう。
食料の調達が厄介だな・・・。』
森が深まる。
視界が悪いのは薄暗いせいかと思っていたが、何やら霧が立ち込めてきたようだ。