第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 09 節「本有(ほんぬ)の発現」
竜族だけに聴こえる声か、あるいはファラの生命に直接呼び掛けたのか。
龍王はもう答えることがなかった。
だが少年には、はっきりと聞き取れた。
この地でも、常勝にして不敗の闘争をやり遂げる意志が固まったのである。
体が小さいことは利点だ。
捕食者が現れるまで、この姿で行こうと決めた。
岩場から深い森へと進入する。
大型の虫が羽音を立てて飛び出す。
リールが勢いよく飛びかかった。
虫は怒りをあらわにして毒を撒く。
これを小竜がかわすと、繁みへ逃げ込んだ。
『大きさといい、狂暴さといい、ミルゼオ国の森とは比較にならない。
原住民は高度な文明を持たず、原生生物と共に生きているんだろう。』
ここでのリールは外来種である。
どの生き物からも敵視された。
バサバサッ、バサッ。
大型の鳥だ。
爬虫類を祖先に持つと言われる獰猛さで、小竜を捕食しようというのか。
嘴をあけて喰らいかかる。
魔力で高速化して脱したが、すぐに追い付かれる。
まだだ、人であることを見抜かれるまでは、この姿で戦おう。
リールがメゼアラムを唱える。
空気の流れが激変して大鳥がバランスを崩す。
そこへ回転刃を伴った、狼のヴィスクが現れる。
魔力を持つ狼は、大鳥の喉を喰い千切ると、羽毛を散々に散らして捕食した。
そして魔法陣へと消えていった。