第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 09 節「本有(ほんぬ)の発現」
『ヱイユ君、また、一人で戦っているの?』
強風が、ひっきりなしに吹き衝(つ)けた。
『ねえ、私。
行ってもいい?』
差し込む光が眩しすぎて、強く目を閉じる、ぎゅっと目を閉じる。
『だめだ、生徒たちはどうする、お前が居なくなったら。』
不思議な色だ。
緑色の、魔力を秘めた光。
だが彼は急にむせて、ゲホゲホと咳をした。
光に満ちていた世界は、にわかに暗い影で覆われ、枯れ落ちた木々や草花の悔恨へと深く埋没してしまった。
その時、共に孤独の中で生きてきた二つの生命は共鳴し、交信した。
『今、行くね。』
『来るな。
俺もお前も死ぬだけだ・・・。』
本当は、彼も生きたかったのだ。
ハッ、と目が覚めた。
自らの額に触れた時、彼は恋い焦がれ、最も愛した人の姿を夢に見て、声さえ聞いた感動で、すっかり頬を濡らしてしまっていた。
細い水の流れが近くにある。
以前は心地良い高音(たかね)を響かせていた小さな川も、今はドロドロと重く鈍い毒に冒されていた。