第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
リザブーグは長きにわたり「王国」であったが、メレナティレ城主カザロワによる王位簒奪、遷都を経て、メレナティレ領リザブーグとなり、タフツァ率いるLIFE騎士団との戦闘の末に開城、シェブロンの入城を果たした。
犠牲を出さないLIFE戦術に、王国兵や家族たちの反メレナティレ感情も味方して、歴代、最もシェブロンや師ラオンジーウの一門を苦しめたこの王都が、ついにLIFEの都となったのである。
折りしも、名称を「リザブーグ市」とする動きが高まっていた。
市民は誰もが平等の権利を持ち、かつての王族や貴族のような特権階級は存在しない。
未婚の男女、既婚の男女からなるそれぞれの代表が集い、将来のリザブーグのことは何事も話し合って決めることになった。
その中で、夕食会に招かれていた、ちょうどソマと同世代で、ソヌージュという名の未婚の女性の代表が、フィヲとサザナイアに応える形で挨拶に立つ。
「戦乱の絶えなかったリザブーグに、ようやく“LIFE”という希望の明かりが灯されました。
その希望ははじめ、シェブロン先生や、先師ラオンジーウ先生の胸中に、師から弟子へと受け継がれてきたのです。
戦う力を持たない多くの市民は、今懸命に“LIFE”を学び、騎士を志す者は剣の道で、術士を志す者は魔法の道で、そして技術者を目指す者は開発の道で、確かに“LIFE”を実現させようとしています。
そしてシェブロン先生は、戦乱がいつまでも続くことはない、未来には“対話”の力こそが、どのような兵器よりも、剣や魔法の力よりも強く、平和な世界を築くために必要になる、と教えてくださいました。
私たちリザブーグ市民は、他国の市民との対話の道を開くことによって、必ず師と弟子の“LIFE”を成就してみせます。
全ての国民が手を取り合って、戦乱を呼ぶ反“LIFE”にはNO(ノー)と、勇気を持って言い切っていきます。」
場内からは、夕食会に集った若い男女だけでなく、警備に立っている騎士たちからも、盛んに拍手が起こった。
フィヲとサザナイアも大いに喜んで拍手を惜しまなかった。
誰より頼もしく、嬉しく思ったのはシェブロンであることは言うまでもない。
シェブロンは夕食会に集った若者たちを眺めつつ、師ラオンジーウを思って心に念じた。
『先生・・・!!
あなたの描かれた未来は、“LIFE”というご構想は、確かに全てが正しかったのです。
暗黒(あんこく)に覆われた空の下、いつ“生命”を奪われるとも知れない危難の日々、最後の光明がまさに消え入ろうとしていた、あの狭い街路は、他のどの国でもなく、このリザブーグだったではありませんか。
私は今、あなたがご存命であれば、どれほどか喜ばれたであろうと思い、心の中で熱い涙を禁じ得ません。
あなたの弟子として生涯お仕え申し上げ、多くの教え子を育てたことが、ついに結実を見たのです・・・!!』
フィヲたちが、皆を呼び集めてくれたシェブロンにも最後に一言話してもらおうと見回した時、彼は広間にいなかった。
真っ先に扉の外まで探しに出たフィヲに、回廊で待っていたシェブロンは言った。
「わたしの話はいいよ。
また城下に行って語り合うから。
・・・さあ、扉を開けて、皆さんをお見送りしようじゃないか。」