第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
フィヲやサザナイアの世代の若者は、男子のほとんどが騎士や技師となって任地に赴いている。
この夕食会の席にも女性が多い。
ロマアヤやレボーヌ=ソォラなど、各国へ帰って行った仲間たちには特別な壮行の場を設けなかった。
それは彼らに、祖国で帰りを待つ民衆があり、家族があるからだ。
明日、フィヲとサザナイアが旅立つ世界には果てしない闘争が待っている。
特にフィヲは家族がなく、現地でファラと合流できても、どこか決まった帰る場所があるわけではない。
そこでシェブロンは、師である自分のいるリザブーグに、LIFEの仲間たちだけでなく多くの友人たちがいることを感じてもらい、ここへ帰ってくるようにと夕食会を開いたのである。
また、サザナイアには故郷ビオム村で旅仲間のルアーズ、アンバスと再会する約束もあった。
二人の仲間は彼女に、これまで通り三人で旅をしようと持ちかけたのだが、サザナイアはファラやフィヲとともに「長老の森」で戦いたいと志願した。
そうした意味で、帰る場所があるといえば、サザナイアにはあった。
しかし最も危険な戦場へ行くからには、本当に生きて帰れるかどうかなど分からない。
シェブロンは、長年に渡って育ててきたLIFEの術士、戦士を、3つの世代に分けて考えていた。
すなわち、ノイやトーハ、ファラの父であるツィクターと母ムヴィア、少し後の入門になるがヴェサも含めて第一世代。
ヱイユ、ソマ、タフツァが第二世代。
そしてファラ、フィヲ、ザンダが第三世代である。
これらの世代を超えて、随一の戦闘力を持つのがヱイユだろう。
闘神の異名にふさわしい。
だがその彼も、幾つかの弱点があった。
シェブロンは心配で心配で、寝ても覚めてもヱイユを思って祈らずにはいられなかった。
それは、相手が強ければ強いほど、ヱイユに顕著に現れてくる性質だった。
つまり、相手を倒すことだけに躍起になってしまうのである。
その時彼は、“LIFE”を見失いかねなかった。
心強いのはファラの存在だ。
ファラが毅然としているだけで、ヱイユが狂わなくていい。
ただ一つ、シェブロンが心配するのは、近頃、数多(あまた)の魔群が、“LIFE”で最強の騎士となりつつあるファラだけを標的にしてきている、ということだった。
もしも残る8つの魔法を失えば、事実上、ファラは死んでしまうかもしれない。