第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
食事の席も半ばを過ぎると、皆移動しながら立食パーティのようになった。
フィヲはミフティオを見つけてテーブルへ寄った。
「ああっ、あなたも先生に!!」
「お店を閉めて帰る時、友達がさそってくれたの。
ここへ来れてよかったわ。」
彼女を連れてきた同世代の女性は言った。
「思いがけず、お昼前、城下でシェブロン先生とお会いしたんです。
『夕食会を開きたいので、みなさんでいらしてください』って。
わたしは、『とても大勢来たら、入りきれなくなりませんか』とお聞きしたの。
そうしたら、『城はいつも騎士や兵士でいっぱいですが、今は各地へ防衛に出てくれていて、少しさびしい状態なのです』とおっしゃって。」
別室で交替しながら食事をとっている騎士たちも、出払って人数が少ないので、この広間を使う時はがらんとしていた。
それで小広間へ移り、夕食会の会場に大広間を譲ったのである。
「そういえばミフティオさん、先生に医術のお話を聞きたかったんじゃない?」
「はい。
・・・もともと私の父が病弱で、近頃は母も体調を崩してしまっていたんです。
お薬が効かなくて、悪くなる一方で・・・。」
それで彼女がカフェへ出稼ぎをしているというのだ。
同世代でありながら、家族のために働いて、自分の夢や将来に向けて動き出せないミフティオの日々を思うと、フィヲは胸が痛んだ。
仕事中、明るく接してくれた表情は悲しみに沈んでしまい、目には涙が浮かんでいた。
フィヲは努めて元気な声でミフティオの両手を取った。
「大丈夫!
シェブロン先生が会ってくださるわ。
病の原因もまた、個々の“生命”にあるの。
だからどんな人でも、“LIFE”に目覚める時、病気はその根っこからなくなっていく。」
「ほ、本当に!?」
「もちろん。
さあ、一緒に行きましょう!!」
遠慮がちに、自信なさそうにミフティオは手を引かれるままフィヲについていった。
「先生っ!
今日、城下で知り合ったミフティオさんです。
カフェでお仕事をされています。」
「おおお、よく来てくださいました。
お仕事の後ということは、どなたかあなたの帰りを待たれているのでは・・・?」
一瞬で見抜かれてしまった。
ミフティオの瞳からキラキラと涙がこぼれ落ちた。
「病気の父と、・・・母が・・・。」
それ以上は声にならなかった。
「あまり遅いとご心配なさることでしょう。
すぐに使いを出しますから、よろしければご住所をお知らせください。」
シェブロンは広間に立っていた女性の衛兵を呼んで住所を聞き取らせ、その家へ事情を伝えに行くよう命じた。
大分、気持ちが落ち着いてきたミフティオに、シェブロンは病状などを尋ねていった。
「明日、午前中にお伺いします。
お父様は長くご病気で、お母様は看病のためにお疲れである、ということですね。」
「はい・・・。」
彼女の心にのしかかっていた苦しみは軽くなり、胸の内から湧き出た希望が笑顔となってはじけた。