第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
「フィヲちゃん、きみも多忙な中だろうに、ウィロをありがとう。」
「いいえ、危険な役割をお任せしてしまって。」
「翼人たちがテンギの周辺に現れているらしいんだ。
城はナズテインさんに頼んで行ってくる。」
「必ずホッシュタスが現れるでしょう。
できればテンギを引き付けながら、ホッシュタスを先に叩けるといいんですけど・・・。」
「そうか!
やってみるよ。
ヱイユとファラくんをどうかよろしく。」
実はフィヲは、ヱイユに対する苦手意識から抜け出せていなかった。
ファラがいるから行くのであって、もしヱイユ一人が奮闘しているとしたら、そこへ加勢など思いもよらなかっただろう。
「フィヲさーん、またねー!!」
「うん、よくタフツァさんの指示を守るのよっ!!」
手を振るウィロの馬車を見送って、フィヲは窓のタフツァに辞儀すると、足早に城へ戻って行った。
御者であるウィロをあまり振り返らせると危ないからである。
ヴェサはタフツァに午後4時半まで待ってくれと伝言したが、フィヲがウィロを伴って来たことで、出発を早めることができた。
先までの夕焼けは、次第に夕闇を帯びてきていた。
フィヲは出発までの心配事の多くが解決したようで、疲れがドッと出てきたのを覚えた。
部屋へ戻ればベッドに倒れこんでしまうかもしれない。
夕飯の後ゆっくり休むことにして、今は自分のために、師の元へ行こうと思った。
いつも、とても近くにいて、フィヲはシェブロンを父のように慕っていた。
しかしよく考えると、シェブロンに対して、弟子として向き合ったことがほとんどないと気付いたのだ。
階段を昇りながら、踊り場にある窓の外が暮れていく様子を見た。
ここにいられる時間はもうわずかであることが胸に迫った。
「先生!」
ノックをするが早いか、戸を開けると、部屋にシェブロンはいなかった。
急に心細くなった。
「屋上かしら・・・?」
更に階段を駆けのぼると、そこにもシェブロンの姿は見えない。
1フロア降りて、立っている兵士に聞いてみた。
「あの、シェブロン先生を見ませんでしたか?」
「先生は『獅子王の会座』へ行かれましたよ。」
「あ、ありがとう!」
師は7階の広間にいるという。
走り回ったせいで上気したフィヲが、兵士にあいさつを交わし、扉を開けた。
「せんせ、・・・。」
シェブロンは、“LIFE”の祈りを捧げているところだった。
フィヲが来たのはすぐに分かったが、師はそのまま祈り続けた。
彼にとってフィヲは、後方の扉の所にいるのではなく、深い祈りの胸中にいるのだ。
とても誇らしい、嬉しい気持ちで、フィヲはその後ろに座る。
そしておとなしく師の姿に習って、深い深い“LIFE”の祈りを捧げるのだった。