The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 36 話
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タフツァの待つ門へ出るまで、フィヲはウィロに話した。

「自分の魔力の総量って、教えてもらった?」
「はい・・・。
お恥ずかしいんですけど、1000ムーワ(魔法単位)あるかないかなんです。」
「いいじゃない、恥ずかしくなんてないわ。
馬に乗るのが上手なのよね。」
「小さい頃から馬は近くにいました。
こうして旅に出られたのも、両親と早く別れたからなんです。
・・・母はぼくを生むとすぐに亡くなったそうで、アミュ=ロヴァの御者をしていた父がよく馬に乗せてくれました。
家には2頭の馬がいました。
でも父が病気に倒れ、ぼくが12歳の時に亡くなりました。
孤児として引き取られる時、馬はぼくの生活費のために売られてしまいましたが、停まっている馬車をみかけると近付いて、よく馬と話したんです。」

フィヲもまたロマアヤの生まれで、赤ん坊の時に土地の神を祀る社(やしろ)に置かれていたのを、シェブロンやヴェサに見つけられ、LIFEの中で育てられたのだ。
幼少の頃、父も母もおらず、顔も覚えていないことから、ある時ヴェサに、自分は捨てられたのではないか、と尋ねたことがある。

ヴェサはフィヲの方を向き、首を横に振った。
他のどんな時にも見せたことのない、優しい表情をしていた。

『お前のご両親は、それはそれは立派な魔法使いだったんだよ。
ロマアヤが敵襲を受けた時、兵に先んじて勇敢に戦われたんだ。
お父様かお母様か、どちらかは、お前を助けるために戦場を離れ、生き延びさせてくれた。
そのお前を見つけたのが、シェブロンさんとあたしだったのさ。』
『じゃあ、わたしを逃がしてくれた、お父様かお母様は、どこかで生きているの!?』
『いや、生きておられればきっとお前を探されたことだろう。
戦場へ戻られたか、あるいは息絶えてしまったか。』

ヴェサはそれ以上語らなかったが、幼いフィヲは両親の話を聞いた後、一晩中泣き続けていた。
朝方ようやく眠った時、ヴェサは両親の形見として置かれていたワンド(幼児の手のひらサイズの魔法杖)を握らせてやった。

かなりの魔力を宿した杖だったため、幼児の段階から持たせておくのは危険であると、預かっておいたのだ。

それからというもの、フィヲは常にワンドを握り、時間が経つのも忘れて見入るなどしたため、ヴェサが心配して再び取り上げてしまった。

ワンドを取り返そうと、元々穏やかで、どこかボーッとしている感じだったフィヲが、気が強くなった。
あまり探すので、木の枝を削ってフィヲ専用の杖を作った。

苦心した末、ヴェサの愛情も十分伝わって、フィヲは魔法を覚え始めた。
実に両親が残したワンドに触れるまで、フィヲの魔力は目覚めずにいたのである。

その小さな形見は今、紐が付けられて、フィヲの首にかけてある。

服の上からそのワンドを握り、フィヲはウィロに言った。

「お父様が残してくださったその馬術の腕前を、どこまでも伸ばしていくのよ。
“LIFE”はきっとその中で目覚めるわ。
魔法も、必ずあなたの力になるでしょう。」
「はい。
シェブロン先生がおっしゃいました。
『内なる“LIFE”を鍛え抜いていくこと、一つ一つの役目を精一杯に果たしていくことだ』、って。」
「うん。
そうそう、さっきね、サザナイアさんと模擬戦をしたの。
剣の腕前において、右に出る者はいないというすごい剣士。
その彼女が、魔法戦になったら力が出ないって、悩んでいたの。」
「サザナイアさんもシェブロン先生のお部屋に来ましたよ。
先生に何か教わって行ったようで。」
「そこで会ったのね。
彼女の場合、剣術をベースにして、魔法戦を立派に制したわ。
あなたの魔力も、馬術と組み合わせることで活きてくるんじゃないかしら。」

ウィロは瞳を輝かせた。
むこうに門が見えて、タフツァが笑って手を振ってくれていた。

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