The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 34 話
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「ありがとう、フィヲ。
お前が明日、行ってしまうのはさびしいが、ファラとヱイユだけでは手に負えまい。
・・・15年前、もう魔法は極め尽くしたと思い上がっていたあたしがシェブロン先生とお会いできたのも、ほどなくして生後間もないお前と出会ったことも、そしてお前が立派に育ってくれたことも、全て今度の戦いのためだったんだ。
耄碌(もうろく)して戦えなくなったあたしの代わりに、これまで教えた全ての魔法の知識を、話して聞かした経験を、“LIFE”のために存分に生かしてきてもらいたいんだ。」
「はい・・・。
必ず、全員で帰還します。
それまでどうかお元気で・・・!!」

戦場にあって、またファラと共に戦う時には、一体彼女のどこにこれほどの強さが秘められていたのだろうと、敵味方ともに驚くのが常であるが、ヴェサと別れなければならないとなると、急に感傷的な気持ちになってしまうのである。

老婆の胸に顔を付けて、声を押し殺して泣くフィヲを見て、少年ウィロは初めて二人の絆の深さを知った。

「ほらほら、泣くんじゃない。
お前は選ばれて最も危険な敵地へ赴くんだ。
どうせ行くなら、この上ない勝利を持って、ここへ帰っておいで。
・・・世界の各地でLIFEの同志たちが勢力を広げ、悪魔の軍勢を迎え撃つ体制を敷いている。
だがフィヲ、いっそのこと、お前が『長老の森』で全てケリをつけてしまうくらいの心積もりで行ったらどうだ。
今や世界で最強の魔法使いになった、何も恐れるものはない、それくらいの自負を持って戦うくらいでちょうどいいじゃないか。」
「そんなっ、私より魔力の強い人がたくさんいるのに・・・。」
「はっはっは、そう思うか。
誰が瞬時に、それも毎瞬毎瞬、正確な“LIFE”の魔法陣を立ち上げられる?
あたしが断言しよう。
お前以上の魔法使いは、もはや世界中どこにもいない。」

仮にそう思うことがあったとしても、フィヲはすぐ自ら打ち消して、更なる向上を期するのである。
これに対して、自分こそが最強であるなどと自負することは、果たして有益であろうか。

「あたしが言いたいのは、LIFEいちの魔法使いであることの自覚と、責任を持てということだよ。
お前にできないことは誰にもできない。
お前の手に負えなかった敵が、森を去っていずこかの都市を襲うならば、人の手で撃退することはほとんど不可能と思うべきだ。
そういう自覚でなければ困る。」
「私が、そんなにたくさんの強敵を・・・?」

困惑するフィヲを、ヴェサはしばらくじっと見ていた。
助け舟は出さなかった。

「一晩考えて分からなければ、明日の出発までに教えてやろう。
・・・そうだ坊や、悪かったな、タフツァと行かねばなるまい。」
「あああっ、大変!
約束の4時を少し過ぎちゃった・・・!!」

ヴェサは立って行って外の兵士を呼び、ウィロがタフツァと待ち合わせたという門へ走らせることにした。

「あたしが大事な話をするのに、引き止めて時間を取ってしまった。
悪いが出発を30分遅らせてくれ、と伝えてほしい。」

ヴェサが出ている間の部屋の中、ウィロはフィヲに何から尋ねていいか分からなくなっていたが、フィヲの方で察して、テンギ戦のことを思い出していった。

「テンギの裏には必ずホッシュタスという術士がいて、この男に元々の身体能力や魔力を操作されているらしいの。
テンギは生まれつき5対の四肢を持った超人で、カーサ=ゴ=スーダの血を引いている以上、相当な魔力の持ち主でもあるはず。
私が思うに、テンギはまだ戦闘力の全てを解放したことはない。
ホッシュタスがファラくんから奪った8つの属性魔法を、テンギはなぜか使うようだけれど、本来はテンギの身にも絶大な魔力が具わっていると思うわ・・・。」

戦闘経験の乏しいウィロにとって、この話を聞いただけではチンプンカンプンである。

フィヲはあまり出発を延ばさせてはいけないと、ウィロを待ち合わせ場所まで送り届けることにした。

その際、愛犬ゴウニーはヴェサの提案でこの部屋に預けられることになった。

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