第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
「ほほぅ、剣で魔法を打ち返すのか。」
観戦席にスヰフォスが姿を現した。
サザナイアは座り込み、フィヲはふわりと降り立っていた。
「先生・・・。
わたし、まだこれがやっとなんです・・・。」
美しい瞳を輝かせているが、光っているのは涙のようにも見えた。
「焦るな、サザナイアよ。
少し前と比べても、見違えるようになっているじゃないか。
何か新しいものを創り出そうとすれば、一度は無理だと投げ出したくなるものだ。
・・・なあ、主人よ。」
振り返ると、スヰフォスの後ろから鍛冶屋の主人が入ってきていた。
厳(いか)つい顔が、誇らしそうに、若者のように生き生きとしている。
明日の完成を予定していたサザナイアの装備品が、一日早く出来上がったのだ。
「どうだ、立てるか。
・・・よしよし、こっちへ来なさい。
主人に礼を言うんだよ。」
サザナイアは駆けて観戦席に上がった。
そしてペコリと辞儀した。
「あなたのような方に使っていただけるのなら、お代はいらねえ。
壊れるまで使って、また俺の店に来てくれ。」
「いやいや主人、それはいけない。
ご好意は受けよう、なあサザナイア。
お前も少し出しなさい。
いくら持っている?」
可愛らしい小銭入れを取り出すと、銅貨ばかりで銀貨はなかった。
「うむ、それしか持っておらぬのか。
ならば全部ワシが預かろう。」
剣を握らせれば右に出る者はいないほど、サザナイアは強かったが、老師が若い娘の少ない所持金を全て出させるというのは、見ている人がいれば不憫にも思っただろう。
だがサザナイアは笑って小銭入れをはたき、もう一度主人に頭を下げるのだ。
スヰフォスが自分の札入れから紙幣を出し、その銅貨を収めようとすると、主人は遮って言った。
「先生、このお嬢さんは財布をはたいて俺の防具を買ってくれたんだ。
その銅貨は俺にくれ。
あとは一切いらない。」
手で鼻をこする鍛冶屋には、サザナイアからもらった銅貨が宝物のように思えるのだ。
「おう、まあいい、主人にはいつも世話になっている。
別の謝礼を届けよう。
よかったな、サザナイア。」
「はい。
こんなに素晴らしい盾を譲ってくださって、ありがとう。」
「呼吸が整ったら、しばらく特訓の様子を見させてもらいたいんだ。」
「あっ、はい・・・。
不慣れな魔法戦、お恥ずかしい限りですが・・・。」
その様子を見ていたフィヲが、下から声をかけた。
「サザナイアさん!
自信を持って!!」
「うん、今行くね・・・!!」
再度向き合うと、フィヲは重ねて言った。
「誰の真似をする必要もないわ。
世界の誰にもできない、サザナイアさんだけの戦法が見つかるはず。
たしかに時間は限られているけれど、ここでのひらめきが『長老の森』での力になります。」
絶対に勝つ。
その内に湛えた揺るがぬ自信こそがサザナイアの魅力であり、強さのほとんど全てであったかもしれない。
今、彼女の目にはその自信が戻ってきていた。