第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
サウス・ウェストのカフェでは、フィヲが注文も済まさないまま、疲れて眠ってしまっていた。
椅子にもたれてうつらうつらしている。
誰かと二人で食事に来たと聞いていた、親切なウェイトレスがそっと肩掛けを用意してくれていた。
床敷きの店内は普通、下足で行き来するようになっている。
入口の方からチリンチリンと扉の鈴の音がして、背の高い女剣士が入ってきた。
しかも、靴を脱いで、片手に持っているのだ。
「お客様、お一人様でしょうか・・・?」
ウェイトレスはやや慌て気味に尋ねた。
「ええ、そこの子、そう、一緒なの。」
「店内はお靴を履いていただいて結構ですが・・・。」
「あははっ、そうね。
・・・これを履いたら、体が軽くなって大変なのよ。」
背もたれから滑って落ちそうになっているフィヲに、サザナイアは声をかけた。
「あら、かわいらしいこと、どこのおじょうさんかしら?」
「はっ・・・。」
きょろきょろと辺りを見回すフィヲに、サザナイアは遠慮もなく笑った。
ウェイトレスもくすくすと笑みをもらした。
「待たせてごめんね!
シェブロン先生にお会いしてきたの。」
「もうこんな時間!?
・・・って、まだそんなでもない、か。」
「さあ、軽く食事にしましょう。」
夢中で森の中を駆け回ったため、昼はとっくに過ぎ、約束の15時半になっていた。
「先生に魔法を込めていただいて。
空中戦を自分のものにできれば、『長老の森』に行っても、思う存分戦える!」
「すごい魔法・・・!!
わたしの苦手な、数学の模様がいっぱい・・・。」
「フィヲちゃん、込められた魔法の、魔法陣まで見えるの!?」
「いいえ、ちょっと考えただけでは、とても組めない、複雑な魔法なの。
それを先生は・・・。」
「手に取られて、あっという間に込めてくださったわ。」
しばらく歓談した後、二人は会計を済ませて店を出ようとした。
するとさっきのウェイトレスが何か言いたそうにしている。
「あの・・・、お城にいらっしゃるシェブロン先生は、お医者様なのですか・・・?」
「先生は病気のこともよくご存知よ。
だって“LIFE”を研究されているんだもの。」
サザナイアと同じくらいの年齢のウェイトレスは、名前をミフティオといった。
フィヲは肩掛けの礼を言いながら、明日の出発前に城で再び会う約束をした。