第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
「ファラくんもザンダくんも行っちゃったし、ヱイユさんはここに来なかった。
他に誰がテンギのことを知っているだろう・・・。」
少年ウィロは警備中の騎士たちに会って回ったり、在室の部屋があれば戸を叩いたりと、タフツァに言われた通り、テンギ戦の経験者を探していたが、結局この昼下がり、情報を得られずにいた。
そんな時ふと、シェブロンの部屋に行ってみようと思いついたのだった。
目的さえ決まれば行動は早い。
師が今どうしているかを考えることもなく、元気いっぱいノックした。
「先生!
いらっしゃいますか!!」
中ですぐに返事があった。
「おお、ウィロくんだね。」
少年が取っ手を回すよりも先に、戸が開いてシェブロンの笑った顔が見えた。
初めて入るシェブロンの部屋は、いったいいつの間にこれほどの量を運び込んだのか、それ以前にどうやって集めたのかと驚くほどの書物が本棚に収められていた。
「先生、これ、全部読まれたんですか!!」
「そうだね、読むと言っても、中には資料も多いんだ。
できるだけ正確なイメージを掴むために。
だが、自然科学や“LIFE”について書かれたものは何度も読んで、ほとんど頭に入っている。」
興味津々で棚から棚へ見て回るウィロの瞳は輝いていたが、気になる本をいざ手に取って題名を見、ページをめくってみると、その表情は難しくなってしまう。
「ぼく、強くなりたいんです。
今は何を読んだらいいでしょうか・・・。」
師匠がこれだけの読書をしてきたと知った少年は、単純に「追いつけない」とは思わなかったらしい。
「先生のようになるには、今何をすればいいか」、・・・十代という、伸びゆく可能性が大きく開かれた年代に師を持てることは最高の幸せである。
シェブロンはタフツァがウィロを連れてテンギ戦に臨むことを知っていた。
また、ウィロが少しでもタフツァの戦力になろうとしている気持ちもよく分かった。
危険を回避するための具体的な注意を与えようと思えばいくらでもあっただろう。
しかし、伸びようとする若い真剣な力には、手を抜かずに応えるというのがシェブロンの信条だった。
細かな指示はタフツァが出しているに違いない。
彼自身は、純粋に“LIFE”を求めて来たこの少年に、一期一会の思いで伝えるべきことがあると考えた。
それは愛弟子タフツァに対する深い信頼に裏打ちされてのことだ。
「魔力もまだまだ伸びるよ。
どうすれば伸ばせるか。
体力をつけようと思えば、走るだろう?」
「はい!」
「それと同じだ。
まず、持続可能な出力で発動を続けることが『持久力』になる。」
「持久力・・・。」
「出力は徐々に上げていけるはずだ。
『ムヴィア(1)』に慣れたら、次は『アーダ(2)』でやる。」
「夜、寝る前に・・・?」
「そう。
本来、内的(心的)エネルギーである『魔力』と、心の内部から見た外的エネルギー、つまり筋力などの『体力』は、全く別のものではない。
人によってどちらを多く使うかで比重が変わってきている、と考えられる。
『魔力』と『体力』の二つが元、同じものであるならば、それを何と言う?」
一瞬、答えに窮したようだったが、やがて顔を上げ、少年と同じように瞳を輝かせている師の目をしっかりと見て、ウィロは答えた。
「“LIFE”、です!」
「そうだ。
きみの資質や将来の戦法が、『魔力』と『体力』のどちらに比重を置くかは、今はまだ分からないかもしれない。
しかし我が内なる“LIFE”を鍛え抜いていくことが、必ずきみを強くする。」