The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 24 話
前へ 戻る 次へ

フィヲが外での特訓を終えたので警備兵に知らせに行こうとすると、サザナイアはリザブーグ城に用事があるので先に戻りたいと言う。

「じゃあ、3時半にサウス・ウェストのカフェで。」


その頃、城ではタフツァが少年ウィロを伴って、馬車で出かける準備をしていた。

他には誰も連れて行かない。
いよいよテンギ戦に向けて動き出そうというのだ。

テンギは今でもミルゼオに近い国境付近で、深い穴の底、仮死状態になっている。
ファラが“LIFE”の魔法陣を形作り、邪悪な者の接近を封じたままである。

タフツァの元へは、第八部隊のバグティムトから、数時間おきに連絡が来ていた。
そのほとんど全ては、「異常なし」だった。

しかし前日、変化が現れてきた。

テンギ自体に変わりはないのだが、周辺の森で黒いローブを着た術士の姿や、この森に生息しない魔獣が出現するようになったという。

「タフツァさん、テンギがもし襲ってきたら、ぼく、一緒に戦います!」
「そうだね。
・・・ただし約束だ。
僕の御者として行ってくれるからには、御者としての役目をしっかり果たしてもらいたい。
馬と馬車とをしっかり守って、僕が退却を指示したら、すぐに車を出すんだ。」
「はい!」
「それと、御者のきみにもしものことがあったら、僕は帰れなくなる。
仲間たちも困るだろう?」
「はい、必ずお役に立ちますから!」
「戦うためには、まず相手を知ることだ。
今、城に出入りしている人たちで、テンギと戦ったことのある人がいれば、話を聞いておくんだよ。」
「出発までにですか!?」
「そうだ。
夕闇が迫る頃、・・・4時がいいな、二人で出発しよう。
それまでに、だ。」
「分かりました!」

ウィロは城の廊下を駆けて行った。
年はファラやフィヲと同じなのであるが、戦う力を持たない分、少し幼く見える。
また、体も小柄だった。

タフツァはゆうべ、シェブロンの部屋に赴いて、“LIFE”の要諦と、テンギ戦の心構えを遅くまで講義してもらった。

師は説いた。

「君自身が力を発揮するのは言うまでもない。
味方の力を最大限に出させていくことも然りだ。
とともに、敵が誰であろうとも、秘めたる悪心・邪心を出させ切ることが肝要だ。」

タフツァは一瞬、怪訝(けげん)な面持ちをした。

「はっはっは、わたしが間違ったことを教えると思うか。
持っているものは『出させる』が正しいのだ。
『封じる』とか『出させないようにする』では、本当に相手と戦うことはできない。
戦闘に勝っても、相手の悪心には打ち勝つことができないからだ。」
「では、相手に力を出させたことによる、被害はどのように防げばよろしいのですか?」
「そこが大事なのだ。
出させるのは『力』じゃない。
邪悪なる『心』をだ。
倒すと言って、体力を削り合い、最後に立っているのがこちらであれば勝ちか。
もちろん自分が倒れ、相手が立っているのでは負けだが、倒しても、悪しき『心』までは倒れていない場合がある。
その『悪心』を破るのが“LIFE”だよ。」

ファラは剣で打ち合う前、必ず相手の非を弾呵(だんか)して、それでも向かってくる力には応戦していた。
シェブロンが言っているのはこのことなのである。

「“LIFE”が広まっていくことには、二通りの様相が現れるのだ。
一つに、悪を滅すること。
もう一つに、善を生ずること。
考えてみたまえ、本来『グルガ(生滅)』とは、このように用いるべきなのだ。」

タフツァは師の指摘を深く受け止め、一晩中、寝ても覚めても考え抜いた。

前へ 戻る 次へ
(c)1999-2024 Katsumasa Kawada.
All Rights Reserved.