第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
「ねえ、フィヲちゃん。
新しい装備は、何か前と違ってる?」
サザナイアが何気なく聞いた。
自分も明日、新しい装備を身に着けられるので、少なからず楽しみにしているのである。
そう言われてみれば、部屋着でいる時よりも身が軽いと思った。
「前は、ロマアヤ式の女性用軽装備。
革鎧のような造りをしていたの。
でも私の戦法は魔法だけだから、素材としての防御力の強さは必要なくて。
確かにこの魔導着は軽い。
ファラくんと二人で、魔法糸に『ゾー』を込めて縫ってもらったから・・・。」
自分が「二人で」と言った後、またフィヲは顔を赤らめ、言葉を途切らした。
サザナイアはからかいたい衝動以上に、ファラもフィヲもかわいい弟妹的な存在なので、抱きしめたいような気持ちになった。
「衣類や防具にずっと魔法を込めておくことができるのね・・・。」
「ルアーズさんのナックルにはアンバスさんの『トゥウィフ』が宿っていたし、私の指輪、この真っ赤な石にはおばあちゃんの『光』が込められているのよ。」
何かを考えながら聞いているのか、サザナイアの関心は別の所にあるようだ。
だがフィヲは、誰かに魔法を宿してもらった装備を身に着けているのは、自分とファラの関係だけではないということを説明しながら、気恥ずかしさを紛らしているつもりらしい。
「その効果って、弱まってしまうものかしら・・・?」
「ええ、次第に弱まって、消えてしまうの。
たとえば、鉄を磁石でこすると、一時的に磁石になるじゃない?
ああいう感じ。
ただ、毎日、同じ魔法を繰り返し繰り返し宿すことで、やがて性質が付いて、消えないようにすることもできる。」
「魔力の消耗は?」
「発動の時だけ。
あとは毎朝とか、毎晩宿してあげていれば、簡単には消えなくなるの。
騎士のみんなが剣を磨くようなものね。」
「それなら、私にぴったりだわ!」
サザナイアが嬉しそうに、大きな声を出したので、フィヲは初めてハッとした。
「私、装備品に毎日『ゾー』をかける。
今までよりも身軽になって、高く飛んでみせるの。」
魔法使いが「飛翔」を行う場合、自らに「ゾー」をかけて体重よりも軽くなり、「トゥウィフ」や「クネネフ」を絶えず使う。
かなりの魔力を放出し続けることになる。
フィヲならば常に大気や大地からのヒーリングを受けているため、「キュキュラ(総力発動)」でも起こさない限り、魔力を切らすことはない。
最初、フィヲもサザナイア自身も、一般的な「飛翔」の方法で空中戦の力をつけるつもりで特訓に励んでいた。
それがサザナイアの魔力の総量では到底実現できないことに気付かされる。
かわりに「滑走」と「ブラスティング・ブレイド」を強化して、機動力と対空アタックの術(すべ)を得た。
フィヲはこの戦力で決戦地「長老の森」へ赴くほかないと腹を決めていたのだ。
しかしサザナイアは別の方法でも空中戦を制する道はきっとあるに違いない、そう考えていた。
「身を軽くして、高く飛ぶの!
木々を飛び越して、空まで届くわ・・・!!」
装備品の重量を落とすとして、理論値でも「0」以下にはならない。
ならば通常の跳躍を超えて高く飛ぶことなど、果たしてできるのだろうか?