第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
どのような危険が迫っても、どんな難敵に遭っても、フィヲならば必ず撃退できるという、不思議な安心感があった。
サザナイアは剣の戦歴において決して引けを取らないが、フィヲの胸を借りるつもりで更に追い討ちをかけた。
実戦で役に立つ戦法を見出すことが二人の目的であるからだ。
フィヲも地面に片手を着いて体勢を立て直し、サザナイアに魔法を打ち込んだ。
1発、打ち返される。
身でかわす。
もう1発、2発、右と左に回り込ませる。
これを剣で弾いたのみならず、サザナイアは盾にも「ロニネ」を宿して、強烈なタックルで魔法を打ち返した。
『あの動き・・・!
盾を持ったことで、新しい発想が生まれている!!』
ストン!
見事に1発、フィヲのバリアに当たった。
振り上げた剣で躍りかかったので、フィヲは素早く身を退いて駆け出した。
滑走を覚えたばかりのサザナイアからすれば、なんと逃げ足の速いことか。
「今度こそ、逃がさないからッ!!」
戦場に立てば、無数の敵を相手にする場面もきっとあるだろう。
だが今は、フィヲと一対一の真剣勝負をしているのである。
これだけ攻勢で追い詰めたものを、立て直すまで逃がしてしまう手はない。
少ないながら、全魔力を使って一気に決着してしまおうと、サザナイアは一念を定めていた。
残りの魔力の半分を滑走に込める。
その身の軽さで、最大限の脚力で猛追する。
残った半分の魔力は、自ら風の回転刃を作り出し、逃げるフィヲ目掛けて投げるのだ。
「一つ!」
少し前方に放った回転体を、右手の剣で繰り出し得る最大の剣撃で打ち抜いた。
ズガン!
これも見事に決まった。
フィヲがよろけている。
もう一つ見られた進展は、左手からも魔法を起動できるようになったことだ。
ペンを握るのも、剣を持つのも右手ならば、魔法の文字を右手で描く間、剣は左手に持つか、一度鞘に収めるなどしなければならない。
それが左手で魔法を起こせたことで、自ら放った2発目の魔法は、1発目から遅れることほんの数秒、まっすぐに正確にフィヲのバリアへ命中させることができた。
「覚悟しなさい!」
こう言って剣を振り下ろそうとした時、フィヲが息を切らしてバリアを維持できなくなったのが見て取れた。
それで強撃を繰り出すのはやめ、両手でフィヲの体をつかまえた。
二人はしばらく笑い転げていた。