第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
サザナイアも滑走は少しずつできるようになっていた。
すーっ、と駆けると、フィヲも木々をはさんで向こうへ駆けていく。
「準備はいいー!?」
「ええっ、お願いします!」
ひゅっ、と鎌鼬(かまいたち)が飛んできた。
フィヲの魔力の色である緑色の回転体は、見事に障害物の間をすり抜けて眼前まで迫る。
サザナイアの振りかぶりがピタリと合った。
カーン!
重点を捉えてよくヒットしたが、上方へカーブして枝葉を散らした。
近くで休んでいた小鳥たちが飛んで逃げていく。
「フィヲちゃん、ごめーん!」
辺りを見回すと、静かで風の音が聞こえるばかりだ。
フィヲの姿が見えなくなってしまった。
どこから魔法が飛んでくるか分からないので、サザナイアは警戒しながら、今打ち返した回転体の当たった場所まで行ってみた。
見上げると、枝が切断されていない。
緑色のエネルギーは霧散して、当たった付近でヒーリングのようになっていた。
『フィヲちゃんが殺傷力のない魔法を撃っているんだわ。
木々を傷つけないように、私の特訓のために・・・。』
仮に当たってもダメージは受けないだろう。
明日の出発を予定している仲間を、育て、かつ守り抜くというのがフィヲの心だった。
と、ふいに背後へ迫る勢いを感じた。
ハッ、と振り返った時、フィヲがロッドで叩きに来ていた。
ガツン!
フィヲは力で押してこない。
魔法を込めたロッドは重く強度もあったが、サザナイアは両手持ちの剣で受けて、打ち返す。
押された力を退く力に変えて、フィヲは進路を取り、素早く遠のいてしまった。
「私を狙って跳ね返すのよ!」
「う、うん・・・!
どんどん撃って!!」
フィヲが宙で回転してロッドを振ると、右へ左へ放たれ回り込んだ回転体が、サザナイアの前後左右に迂回して襲い掛かった。
本来の利き手は右であるサザナイアは、大きな剣を右手だけで操り、左からの攻撃を盾で防いだ。
正面に飛んできた回転体を打ち返すと、地面の上を転がっていった。
体勢を取る間もなく、右からの攻撃をどうにか返す刀で弾いた。
が、背後に飛んできた回転体から、無防備な状態で直撃を受けてしまい、突き飛ばされて数歩前の木に両手を着いた。
剣は取り落としてしまっていた。