第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
闘技場にシェブロンが立っている。
周囲の騎士たちは皆、息を呑んだ。
そして、どのような手ほどきが与えられるのかと見守った。
「フィヲ、いいよ。
私がヒーリングを使おう。」
サザナイアを何としても戦力にしたいという一心で、フィヲも相当気を張っていたのだろう。
ヒーリングを解くと、足元にぺたんと座り込んでしまった。
風の術士であるフィヲの魔力は緑色をしていた。
それに対して、シェブロンの魔力は暖色で、オレンジがかっていた。
ポカポカと温めるようにして体を癒す。
自然界の現象で言えば、“陽光”に最も近い魔力の現れ方といえる。
「すごい回復量だわ・・・。」
サザナイアは早くも立ち上がって、自分の両手を見比べた。
「もう戻ったでしょう。」
「はい、ありがとうございます!!」
「私は剣の指南はできません。
魔法の専門家ですからね。」
そう言いながら、彼はフィヲに、近くの壁に立てかけられている木の棒を取ってほしいと手振りで伝えた。
フィヲは頷いて、急いで取ってきた。
それは水拭き用のモップの、先端がない木の柄だった。
「これで十分です。
どんな剣士にも負けません。」
シェブロンは先端を天井に向けて持ち直しただけだったが、サザナイアは、これは全く太刀打ちできないという感じを受けた。
「私が先にやってお見せしましょう。
あなたにぴったりの魔力の使い方ではないでしょうか。」
辺りを見回し、もう一度フィヲに声をかける。
「魔法を吸収する結界を張ってくれないか。
壁や天井を壊すといけない。
・・・仕方がないさ、戦場で使う技を、ここでやって見せるんだから。」
言われた通り、フィヲはシェブロンがどんな魔法を放ってもいいように結界を張った。
「サザナイアさん、『魔法剣』を使いますか?」
「は、はい、少しですけど・・・。」
「それと同じです。
『ロニネ(結界)』を『ススハ(回転)』の形に描いた現象として剣に宿らせ、斬って飛ばすのです。
・・・更に8属性、どれを乗せてもいいでしょう。」
分かりやすいように、シェブロンは『クネネフ(風)』を起こした。
回転型ロニネのクネネフは、モップの柄に宿り、旋風(つむじかぜ)のように回った。
「発動自体の出力は最小中の最小でいい。
威力は、距離0において、あなたの剣の斬撃と等しくなります。」
スッと振りかぶった棒で、回転クネネフは弾き飛ばされ、空気を切りながらカーブを描いていく。
そしてフィヲの結界に当たって消えた。
「すぐに慣れます。
そうしたら、実体のある『ロニネ』を宿して打たなくても、飛ばしたい魔法を剣に宿して、振り抜く力で飛ばせるようになるでしょう。」
フィヲは、サザナイアの腕力を以ってすれば計り知れない攻撃となる発動法を、シェブロンが一目で見出し、的確にアドバイスしたことに驚いた。
魔力を全回まで戻してもらっていたサザナイアは、瞳を輝かせて、早くも剣を振りながらイメージを膨らませていた。