The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 15 話
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少し離れた観戦席から、スヰフォス学師が見ていた。
周囲には自主トレーニングをする兵士などもいる。

中には休憩をかねて、サザナイアやフィヲに憧れの眼差しを送る者もいた。

「じゃあ、再開!」
「えええっ・・・!」

全回復までは持っていかなかったが、フィヲはかなり上乗せてヒーリングしたつもりである。

「さあ、慣らして・・・!!」

すぐに打ち合わないようなので、サザナイアは安心して、丁寧に文字を描いた。
どんなに早く描いても、実際に文字になっていなければ魔法は発動しないからだ。

『あれでは実戦で使えない。
反復練習が必要だわ・・・。』

ようやく立ち上げたのは「ゾー(重力)」であり、身を軽くしただけで、「トゥウィフ(衝撃)」か「クネネフ(風)」を起こさなければ“飛翔”にならない。
だがサザナイアは落ち着いて、次の魔法陣を描き始めた。

『最初は誰でもああいう感じ。
文字に親しむまで時間がかかる。
・・・けれど、ああ、どうしたらいいのっ!?』

サザナイアの体が浮かび上がった。
しかし、少しでも魔法を放つ力を弱めれば、地面に落ちてしまう。

『出力が強い割りに、威力が小さ過ぎる。
もっと微小な出力を持続できるようでなければ、空中戦は自分から危険に飛び込むようなものだわ・・・。』

すーっ、と着地したはいいが、サザナイアは魔力を使い果たしてその場に座り込んでしまった。
今フィヲから注いでもらったばかりの大半を放出した形である。

共に文字を描いて、発動させるところからのスタートだった。
現象が起こり、彼女の戦闘スタイルの中で効果的に取り入れるところまでは比較的容易にできた。

それが今度の目標である「空中戦」まで到達しようと考えると、途方もない時間と訓練を要することが分かってきた。

魔法の専門家ではないスヰフォス学師も頭を抱えてしまった。
悪魔とその眷属(けんぞく)である有翼獣が、地上での戦闘に合わせてくれるはずはない。

どうしても対空戦術が必要なのだ。

そこへ、ソマたちを送り出したばかりのシェブロンが入ってきた。
彼はサザナイアが力を使い果たし、フィヲが落胆しているのを見て、何か思いついたのだろう、笑みを湛えながら声をかけた。

「フィヲ、サザナイアさんにもう一度回復を。」
「は、はいっ・・・!!」

サザナイアの戦法に占める魔法のウェイトはかなり低めに設定せざるを得ないと、フィヲが一番痛感していたが、シェブロンならばきっと適切に力を引き出してくれるにちがいないと直覚した。

緑色の魔力が辺りを包んだ。

「さあ、スヰフォスさん。
あの光の中へ行ってみましょう。」

シェブロンに手を引かれるまま、学師も闘技場まで歩いた。
全身に力が漲ってくる感じがする。
それは外側から入ってくるエネルギーというよりも、個々の内側からエネルギーを湧き出させるために、外から誘い出してくれるような魔力のはたらきだった。

「うん、フィヲらしい。
励ましのエネルギーだ。
人の“生命力”を励起する人間信頼と、一歩を踏み出す勇気の力だね。」

たとえ疲れ切っていても、励ましを送ることで、“生命”から内なる限りない力を呼び出すことができる。

彼女は、必要に応じて誰でも無限の“生命力”を湧現(ゆげん)できると強く信じており、それを出させるために、自らの勇気で相手の勇気を奮い立たせることが“LIFE”であると、繰り返し繰り返し教わっては実践してきた。

だからどんな場面でも“エンパワー”を基調とするヒーリングが実現できるのである。

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