第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」
ソマとアミュ=ロヴァへ帰る一行を乗せた馬車が出発すると、シェブロンはタフツァに言った。
「ナズテイン君にはLIFE騎士の派遣と新たな育成を頼んでいる。
フスカ港やコダーヴ市、ビオム村にも部隊を出してもらうつもりだ。」
「これで布陣が整いましたね。
あとは世界を“LIFE”の祈りで包むことができれば。」
「レボーヌ=ソォラとロマアヤは大丈夫だろう。
カーサ=ゴ=スーダについても、ソマには話してある。
メビカとウズダクは軍人が多い。
誰か使者を立てて導いてやりたいな。」
それは各地に“祈りの広間”を建立(こんりゅう)しようという、シェブロンの提案から始まった。
戦闘に立たない人々が交替で“LIFE”の祈りを捧げ続けるのだ。
「今日にもリザブーグ城と4つの城下町、ミナリィ港で始める。
LIFE騎士団が赴くフスカとコダーヴ、ビオムでも行う。」
たしかに五芒星や六芒星といった「方陣」には魔法エネルギーを集中させる力がある。
しかしそれ以上に強いものは、生きとし生きるものの“LIFE”を願う“祈り”で、地上を満たすことである。
「形式でも、強制されてやるのでもない。
誰もが“生命”の奥底(おうてい)で願っている所の“LIFE”を、人々の“祈り”の姿として引き出すことが、地上を“LIFE”で満たすということに他ならない。
これで必ず、『破滅の力』は押し止(とど)められるだろう・・・!!」
シェブロンは第六天を鋭く睨んでそう語った。
同じ頃、サウス・ウェストタウンの練兵場では、フィヲとサザナイアの特訓が行われていた。
フィヲは新しい装備を身につけて、サザナイアは完成を待つ装備の代替品を使って。
以前、ファラとルアーズが参加してトーナメントが行われた場所である。
「身を軽くしてっ、いくわよっ、さあ、トゥウィフをっ・・・!!」
「待って、間に合わない・・・。」
力を加減して、コン、とフィヲの杖がサザナイアの脛(すね)に当たった。
「大丈夫!?」
「う、うん・・・ごめん。」
フィヲは、物理攻撃を遮断し、魔法を吸収する無敵のバリアの中にいた。
サザナイアが強撃を繰り出しても、まるでぶ厚いゴムの壁を打ったように跳ね返った。
「詠唱速度かしら・・・。
それとも、魔力切れ・・・??」
「どっちもだわ!
フィヲちゃん、動きが素早くて・・・。」
仕方がないので、フィヲはサザナイアにヒーリングを与えた。
緑色の魔法エネルギーが湧き上がってきて、二人を包み込む。
「それじゃあ、半分を越えたら再開にしましょう。」
「ええーっ、全回じゃなくて!?」
「ふふ、だって戦場では全回なんてないでしょう?」
同じヒーリングでも、フィヲにかけてもらうと回復は早かった。
「この緑色の光、何かに似てない?」
「ええっと、・・・そうだ、“LIFE”の祈り!?」
「そう。
シェブロン先生は、この光で地上を満たそうとされているのよ。」
「生も死も、有形も無形も、万物が歓喜する“生命”の歌・・・。」
「難しい言い方、よく覚えたわね。
“生命”には生と死がある。
死とは、広く言えば、生体を形作る元素が、生体以外を形作っている状態のこと。
石や紙、木材、金属だって、私たちの体と星の一部にもなり、物質にもなるのよ。」
それはここ数日、毎朝毎晩、老婆ヴェサとともに祈り、そして学んだ、シェブロンやラオンジーウの著書の中の一節を、彼女の言葉で言い表したものだった。