The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 08 節「“LIFE”を開く」

第 12 話
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『わたしの“生命”、このリザブーグを、タフツァの側(そば)を離れるのがさびしい・・・。』

ヤエは何と言っていいのか分からないまま立ち尽くしていた。

各地に異変が起こってからでは手遅れになる。
出発の時刻を決めた以上、送り出さなければならない。

タフツァにはそうした焦りもあった。

だがシェブロンは、出発が遅れているのはヤエのせいではなく、自分がソマを引き止め、大切な話をしているためだと皆に思わせるように、しきりに事細かな指示を与えていた。

「あの『長老の森』ですら、悪魔たちの侵入を防ぐことができなかった。
まして人間の術士が形作る方陣など、たやすく破られてしまうかもしれない。
それでもだ。
アミュ=ロヴァをはじめ、レボーヌ=ソォラの集落という集落を、きみたちの手で守ってもらいたい。
どうだ、できるか?」

ソマはシェブロンから直接責任を持たされたことはなかった。
それでどぎまぎしながら、即答はできないでいた。

「はっはっは、ソマ。
いい方法が思いつかなくても、とりあえず『やります』と言うんだ。
できるもできないも、まずは中心者が『やる』と決めるところからしか始まらないじゃないか。」
「は、はい・・・。」

子供のように顔を赤らめるソマを、シェブロンは父親のような心から、まだ自分が守ってやらねば、と思った。
しかし、自らその考えを振り払って言った。

「きみが仮に、多少の犠牲は止むを得ないと思ったとする。
きっと犠牲者が出るだろう。
それでは真のLIFEのリーダーとは言えない。」
「はい・・・!」

他の誰と話している時よりも、ソマの瞳は美しかった。
それは、若い女性特有の美しさとは別のものである。

年老いても、男性であっても、美しい心を湛えた瞳の輝きというものは持ち続けられるものだ。
青年時代の感動を、純粋さを、求め抜く心を忘れてしまう所から、“生命”は濁り、瞳の美しさは失われてしまう。

シェブロンの目もまた、青年の頃のままの輝きを持っていた。
苦難の渦中にあって、また逆境で、あるいは地位を得たとしても、彼の愛する教え子たちへの眼差しは変わることがなかった。

ソマの目に涙が光った。
シェブロンは心を打たれたが、感傷を捨て、自分とソマを鼓舞するように強く言い聞かせた。

「きみと同じ心で戦ってくれる同志を増やすんだ。
頼れる仲間を探すというのではないよ。
飽くまできみが全てに責任を持つんだが、きみの分身となって事に当たれる人を、一人また一人と育てていきなさい。
たとえばヤエさんのような存在だよ。」

そう言って彼はちらとヤエの方を見た。
ソマも、遠慮がちに見た。

シェブロンは、ヤエから言葉が出ないのではなく、タフツァが彼女に言うべきことを言わないのだと分かった。
だがタフツァ自身、まだそのことに気が付いていないようでもある。

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